第一章

第2話

「……おおい。皆、席に着け。中間テストの答案、全教科返すぞぉ!」


 一学期の中間テストが終わった、週明けの帰りのホームルーム。教壇に立った担任の上杉うえすぎ先生のそんなかけ声に、二年一組の教室に非難めいた叫び声が一斉に響き渡る。それもそうかと、私――品川青葉しながわあおばはふうっと静かに息を吐き出した。


 今回の中間テストは、全体的に問題の質が高かったと思う。うちの高校は県内でも偏差値は高めの方だし、二年くらい前の先輩が現役で東大に入ったとかいう話も聞いた事がある。先生達はきっと、その事に味をしめてるんだ。おかげでこっちはとんだとばっちりなんだけど。


 私が心の中でそんな悪態をついているなんて思ってもいないだろう上杉先生は、重そうで分厚い答案の束をどさりと教卓の上に置く。そして、どこか意地の悪そうな笑みを浮かべながら「出席番号順に取りに来ぉい。まずは飯塚いいづか!」と声を張り上げた。


 うちの高校には、ちょっとした特徴がいくつかある。まずはその一つ、出席番号は男女混合だという事。これは別にあんまり気にしてない、むしろ男女平等バンザイ。


 そして、これはあまり歓迎されてない事なんだけど、上杉先生が先に言った通り、定期テストの答案は全教科一斉に返却される事。その際、教科別や総合点数の順位を記した結果表も一緒に付いてくるという事が、生徒ほぼ全員の頭を悩ませていた。


 子供の頃、父親と一緒に見た昔の学園ドラマの再放送の中では、テストの成績は大きな紙に個人名や総合点数を書き記して、それを廊下の壁とか掲示板に貼り出していた。それって個人情報の漏洩になっちゃうだろうから、今の時代じゃ絶対にあり得ない。その代わりとでも言うように、何枚ものテスト答案の一番上にクリップで横に細長い紙が留められていて、それに教科別や総合点数の順位が記されるようになった。


 次々と名前が呼ばれていくクラスメイト達の、壇上から自分の席へと引き返していく時の表情は様々だ。予想通りの成績にほっとしている者、思っていたよりも悲惨な結果に終わって愕然としている者……あ、小田おだ君のあの様子から察するに、何かしらの教科で補習が決まったってところかな?


 がくりとうなだれて、とぼとぼと自分の席に向かっていく小田君の様子をちらちら見ながら、私がそう思った時だった。


「……菊池きくちぃ、菊池英輔きくちえいすけ! 早く取りに来ないかぁ!」


 若干いらだったような上杉先生の声と、クスクスとおかしそうに笑っている何人かの女子の声。それを聞いて、私はここ二ヵ月弱で何度目になったか分からない「またか……」を思いながら、教室窓際最後列にある隣の席に顔を向けた。

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