プロローグ
第1話
どうやら今は、いわゆる転生ものって奴が大ブームらしい。
特別優れた才能を持っている訳でもない平凡な男子高校生が、ある日交通事故に遭って死亡。それで気が付いたら、ファンタジー要素溢れる異世界のチートな勇者になっていたりとか。二次元の王子様に憧れていた三十路OLが、次に生まれ変わってたらその王子様の恋路をジャマする悪役令嬢だったりとか。さんざん姑にいびられていたお嫁さんが、転生した二度目の人生で復讐に走るとか……とにかく、物語の主人公達はいろいろとやり直しのきく人生を送っている。
その気持ちは、まあ分からなくもない。誰だって多かれ少なかれ、今の自分に納得できてないところがあると思う。ささやかなところから言ったら、もうちょっと背が高かったらとか、あの人みたいに肌がきれいだったらとか、たぶんそんな感じ。
あと、保育園とか小学校のお披露目会で演劇とかした時、大体が立候補で「自分がこの役をやりたい!」って手を挙げたりしなかった? それって、子供なりに「あの役みたいになれたらな」っていう変身願望を少なからず叶えようとしてたんじゃないかな。
それも、体が大きくなっていくにつれてだんだん難しくなってくる。もちろん、そうなる為の努力を惜しまない人はこの世にはいくらだっているけど、実際に叶えていくのは本当にひと握りの数しかいなくて、選ばれずに脱落していく人の方が圧倒的だ。
だからきっと、今の大ブームが来る事は必然だったんだろう。物語の主人公達に思いを馳せて共感していく事で、自分の代わりを託している。そうやって、不甲斐ない現実の自分を忘れる事ができているのかもしれない。私も、そんな情けない現実の中の一人だと思う。
だけど、私はいい。
負け知らずなせいで逆に困ってしまうチートな勇者とか、推しの王子様をいじめる事に罪悪感を持つ悪役令嬢とか、復讐していくうちに実は姑の本当の気持ちが分かって後悔しだすお嫁さんとか、そんな大げさな存在に変わらなくていい。私は、私のままでいい。
でも、どうしても。もし、強いて言う事が許されるんなら。
私は今度生まれ変われるなら、彼のようになりたい。
猫みたいに自由気ままで、それでいて自分のやりたい事にいつもまっすぐで、ひたむきで、決して折れる事がなかった。
そんな、隣の席の彼みたいになりたかった――。
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