第49話
「え?」
「今日、図書委員の当番だったんだろ? 迷惑かけちまったよな?」
「確かに当番でしたけど、別にそこまでの事じゃ……」
ひとまずそう言っておいたけど、実際はそれなりに大変で面倒な事が多かった。と言うより、あたしがどれだけ当番の仕事の内容をきちんと把握できてなくて、岡本君にやらせっぱなしだったかって事が身にしみてよく分かった。
作業自体はさほど多くないけど
本の補修だって岡本君ほど手早くできなくて、木曜の当番の人に残りを任せるような事になっちゃったし。放課後の当番が終わった時も、急いで職員室に行こうとしたせいで図書室の鍵を司書室に戻すのを忘れそうになったり……。全部、いつも岡本君が最後にチェックしていた事ばかりだった。
その事を思い出していたら、おじさんがもう一度「ごめんよ」と言って、ぺこりと頭を下げてきた。
「誠也君も気にしてたんだ。具合が悪くなったって連絡が来たから迎えに行ったんだけど、珍しく『帰らない、帰りたくない』と駄々をこねてさ」
「え……」
「『今日は図書委員の当番がある。安藤と話したい事があるんだ』って、何度もそう言ってな。でも、顔色も悪かったから強引に連れ帰っちまったんだ。おかげで、今は部屋の中でへそ曲げちまってるよ」
おじさんのその言葉に思わず揺れてしまったあたしの右手の指先が、スカートのポケットの上を掠める。そのせいで、中のラッピング袋のフリルとリボンがかさりと擦れたような物音を立てたのが聞こえた。
……何それ。もしかして、岡本君も私と同じ理由で悩んでたって事?
クッキーや伝言を預けたまではいいとしても、もしかしたらそれだけだと話をするきっかけになるには弱いかもしれないとか。当番の時にあたしと顔を合わせたら、最初に何を言おうかとか、いろいろ悩んでたって事? そのせいで、まるで小さな子供みたいに早退するのを嫌がってたって訳? 本当、何それ。
「別に気にしないでいいのに」
あたしは、ぽつりと言った。
「誰だって具合悪くなる時はなるんだから。めまいまでしたんなら、おとなしく帰ればいいのに」
「俺もそう思うよ。でも、何か今日は聞き訳がよくなくて。本当ごめんよ」
あたしの買ってきた花束を抱えて、しょんぼりとうなだれるおじさん。格好と花束が全然似合ってなくて、何だかおもしろかった。
「……岡本君、今寝てたりしてます?」
気付くと、あたしはそんな事をおじさんに尋ねていた。
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