第45話
「はい、これ。岡本君から」
笑みを浮かべたままでラッピング袋を差し出してくる美琴。岡本君の名前さえなかったら、あたしはきっと喜んで受け取ってたと思う。あたしがすぐに「いらない」と言うと、美琴は困ったように肩をすくめた。
「それは困るなあ。私だって頼まれて持ってきたんだし」
「昨日の事も含めて、美琴には悪いと思うけど。あたし、まだ怒ってるんだし」
「だから、そのお詫びなんじゃない? あの後、岡本君ってば百均寄ってってね。自分でこの袋買って、クッキー包んでたもん」
は……? 美琴のその言葉に、あたしの頭の中はあり得ない事を想像していく。
あの岡本君が? こんな女の子が好きそうな感じのラッピングを自分で選んでレジに並んだっての? 美琴がクッキーって言っていたから、中身はあの岡本豆腐店のおいしい豆腐クッキーだってのは分かるけど、それをあの岡本君がこんなにかわいらしく包んで入れたって事!?
「……岡本君ちに行ったの?」
ちょっと見当違いっぽい事を聞いてしまった気はするけど、美琴は特に気にする様子もなく、「うん」と大きく頷いた。
「何で百均でラッピングなんて買うんだろうって思ってたら、『頼みたい事があるんだ』なんて言われて、そのまま連れていかれた。で、これを預かったって感じかな?」
「……」
「ひとまず伝言もあるんだけど、聞く?」
どうせ、この間みたいな感じに「ごめん」とか簡単に言ってくるんでしょ? それとも、他にどんな言い訳が飛び出してくる?
そんなふうに思いながらちょっと唇を噛みしめて身構えてたあたしに、美琴は苦笑しながらも岡本君からの伝言を届ける。何故かその時、美琴の声は岡本君の声に変換されて聞こえたような気がした。
「『今日も図書委員の当番、頑張ろうね』、だって」
美琴は持っていたラッピング袋をそっとていねいに持ち上げ、あたしの手のひらにぽんと乗せる。軽い事もあったけど、フリルとリボンの感触が手のひらをくすぐって、まるで天使の羽で撫でられたような気がした。
こればっかりは、さすがに想像の範囲を超えていた。でも、岡本君らしいなと納得もしてしまう。
まだ少しイライラは残っていたけれど、今日の図書委員の当番をサボってやろうという気は完全にあたしの中から消え失せてしまった。
「……これ、今日も分けてあげよっか?」
ラッピング袋を見つめたままであたしはそう言ったけど、美琴は首を横に振りながら「謹んでお断りします」なんて言った。
「岡本君の気持ちなんだから、これは智夏が全部食べてあげるべきだよ」
ね? と美琴が促してくれていたら、そこでちょうど予鈴のチャイムが鳴った。返事をするタイミングを失ったけど、あたしはラッピング袋を学生カバンと一緒に抱えながら美琴と昇降口を目指して走った。
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