第43話
「ちょっと二人とも……」
売店のおばちゃんがこっちをいぶかしむように見ていたのを美琴が気にしていたけど、そんなの知った事じゃない。あたしは岡本君をにらみつけながら言った。
「また、そっちの身勝手な価値観押し付ける気?」
「……」
「そうやって、いちいちケンカ売ってこないでよ。これなんか、何て読むかも分かんないし」
もう一度だけパンフレットに目を向けると、ちょうどさっき読めなかった文字が視界の真ん中に入った。本当に何て読むんだろこれ、『でんでん』……?
「『
「え……?」
無意識に『でんでん』が口から漏れちゃってたのか、それを聞いた岡本君が首を伸ばしてパンフレットを覗き込む。そして、ふうっと呆れ返ったようにため息をついた後でそう言ってきた。
「『このシーンを入れる入れないと
あたしが読めなかったコメントの一文を、そっと指でなぞりながら読み上げる岡本君。そこまでにしてくれてたらよかったのに、最後に余計な一言を付け加えてくれたおかげで楽しかった気分が台無しになってしまった。
「そんな字も読めないなら、小1からやり直せば?」
もう限界だった。気が付いた時には、フロアの中でバチィンッと甲高い音が響いていて、売店のおばちゃんの目が思いっきり見開いている様子も見えた。
「……岡本君って、本当に最低!」
自分でもありきたりで小学生レベルだと思ったけど、そんな捨て台詞をぶつけてあたしはフロアを出ていった。「あっ、智夏!」ってあたしの名前を慌てて呼ぶ美琴の声が聞こえてきたけど、もう知らない。とても気にかけてられなかった。
ずんずんとした足取りで、そのまま駅へと向かう。さっき入ったスタバの前も通り過ぎたけど、もう新作ドリンクがどんな味をしていたのか忘れてしまった。それくらいムカついてしょうがなかったし、それに比例するみたいに右手の手のひらはジンジンと痺れて痛かった。
ああ、もう。どうして今日は火曜なんだろう。どうして明日は水曜なんだろう。
当分岡本君とは顔を合わせたくないっていうのに、明日の昼休みになれば嫌でも一緒にいなくちゃならないのが本当に嫌で仕方がない。
明日、熱が出ないかな。一週間くらい寝込んじゃうような風邪でもひかないかな。もしくは、休校にはなるけどギリギリ災害にならないくらいの大雨でも降らないもんだろうか。
そんな事を何度も何度も考えながら、あたしは駅に向かってひたすら歩き続けた。
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