第22話

「……はい、OKで~す! こちらでの収録は以上になります、お疲れ様で~す!」


 二時間くらいが、あっという間だった。


 テレビ番組の収録を見るのって初めてだったから進行具合とかはよく分かんないけど、案外順番通りに録ったりしないんだと初めて知った。オープニングトークが終わったと思ったら、もうエンディング。皆で「さようなら~」なんて言いながらカメラに手を振って、それも無事に終われば、次はサイクリングが終わったという体でグルメリポートが始まった。


 グルメと呼ぶには程遠く、どこででも見かけるような平凡なバーベキューセットが町役場前に運ばれてきて、今朝収穫されたばかりと銘打たれた野菜の数々が網の上で焼かれていく。それ自体は嘘じゃないだろうけど、お肉の方はどうも安っぽく見えて映えない。なのに、キャストは皆、ものすごい満面の笑みでおいしそうに頬張っていた。


「……はい、すごくおいしいです。僕は野菜中心の食生活をしてるんですけど、ここまでおいしいのを食べたのは初めてかもしれないです。このピーマンなんて、緑がこんなに濃くって歯ごたえもいいですよ」


 バーベキューの感想を聞かれて、汐が受け皿のピーマンをうっとりと眺めながらそう答える。汐がそう言うならと、お母さんにLINEで『今夜はピーマンの肉詰めにして』とリクエストしたら、クエスチョンマークをいっぱい抱えた猫のスタンプと『あんたピーマン嫌いじゃなかった?』という返事が返ってきた。いいの、今日からピーマンがあたしの大好物になるんだから。


 バーベキューの収録も終わったらしく、スタッフの人達が一斉に後片付けを始める。それと同時に、これまでずっと無言を強制されてきた見物客達がちょっとずつざわつきだした。もちろん、あたしやお姉ちゃんも。


「この後、どうするのかな?」

「さあ? でも、多分サイクリングに行くんじゃない?」


 ほら、とお姉ちゃんが指差す方を見ると、キャストの人数分の自転車が次々と運ばれてくる。またあたしの心臓が忙しく波打った。


 汐のスマートな足が優雅に伸ばされて、あの自転車に腰を下ろすのかぁ。いいなぁ……なんて、無機物にまでうらやましさがこみ上げてきた時だった。


「ええ~、収録の見学はここまでとなります。皆様、本日はありがとうございました!」


 突然、スタッフの一人があたし達の前に飛び出してきたと思ったら、ぺこりと頭を下げながらそう言ってきた。あたしは目の前のガードマンがにらんでくるのも構わず、他の人達と一緒にブーイングの声をあげた。


 嘘でしょ、ここからがメインイベントじゃん。汐のカッコいいサイクリング姿が見たかったのに!


 お姉ちゃんが「ちょっと智夏……」と腕を引いてくるのも無視して、あたしは粘る。もうちょっと、もうちょっとだけ。


 そう思いながら、ガードマンの大きく広げている両腕の隙間を覗き込んでいたら。

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