第21話

「出演者の方々、入りま~す。よろしくお願いしま~す!」


 スタッフの人の元気のいい声と共に、町役場の横に停まっていたマイクロバスの出入り口ドアがゆっくりと開いた。


 たぶん出演者の控室代わりとなってたんだろうけど、そこからいつもテレビで見るようなお笑い芸人やタレントさんがゆっくりと降りてきた。そしてその一番最後に降りてきたのは、どこからどう見ても、やっぱりあの汐で……!


「うっ、うし、おっ……ひゃ、ぁっ……!」


 静かにしていて下さいというスタッフの言い付けがあるから、他の人達と同じように大声を出すのは何とか堪えたけど、興奮だけはどうしても抑え込めない。とっさに両手で口元を塞いだけど、変な声と息が指の隙間から漏れ出ちゃって恥ずかしかった。


「ちょっと、大丈夫?」


 すぐ隣にいるお姉ちゃんがひそひそ声で話しかけながら、ペットボトルのお茶を差し出してきた。集まった人達の熱気のせいなのか少しぬるくなっていたけれど、ほっといたら溢れ出そうなものを喉の奥まで流し込んでくれたから助かった。


 お姉ちゃんにお礼を言いながらペットボトルを返していたら、他の共演者に改めてあいさつしている汐の声が聞こえてきた。


「今日はよろしくお願いします」

「いえ、まだ映像の撮影には慣れてなくて……」

「はい、頑張ります」


 ……ヤバい、腰が抜けそう。


 『Tiina』だと声は聞けないし、いくらプロフィールに百八十七センチって書かれてあっても実際どれだけ背が高いのか知る事は難しい。でも今、目の前に汐がいる。何て素敵なベルベットボイスだろう。足、本当にすらっとしてて長い。男の人なのに、あたしよりずっと顔小さい感じだし。もしかして、今着ている服って自前? 厚すぎない紺色のアウターに無地のグレーインナー、そして新品っぽいGパンを合わせたカジュアルな格好が死ぬほど似合ってる!!


 ヤバい、ヤバい、ヤバすぎる!! 今日の汐、本当にカッコいい……!


 あたしの両目から感激のあまり、うっすらと涙がにじみ出てくる。そんな中、バラエティ番組の収録がスタートしていった。


 進行役のお笑い芸人が勢いのありすぎるタイトルコールをして、それに合わせるようにして横に並んでいるゲストの皆が笑顔で拍手する。その一番右端に、汐が立っている。出演者の中で一番背が高いから、やっぱりよく目立つ。うん、カッコいい! もうそれだけしか言葉が出てこない。自分の貧相な語彙力が恨めしかったりもするけど、それ以外にどう汐を褒めていいか分からないくらいにカッコよかった。


「そうですね。僕、こういう自然溢れる場所って大好きなんですよ」


 お笑い芸人が急に質問を振ってきても、さらりとスマートにそう答える汐。台本的にそういう流れになってるかもしれないけど、あたしの心臓はドキドキと忙しい事この上なしだった。

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