第20話
次の日。日曜日という事もあってか、ロケの現場となってる町役場前はたくさんの人達で溢れ返っていた。
はっきり言って、この町役場はショボすぎる。面積はちょっと広い方だけど木造の平屋建てだし、いかにも『ザ・田舎!』を表現しているみたいなボロくささをまとっている。だから普段は関係者以外の人の出入りなんてほとんどないのに、汐が来るってだけでまるで開演前のライブ会場みたいな有り様になっていた。
「はい、押さないで。押さないで下さい。この白線よりこちら側には入らないようお願いします」
「ロケの最中はお静かに願います。なお写真や動画の撮影も絶対禁止です。よろしくお願いします」
わあわあ、きゃあきゃあと騒ぎ立てている見物客に向かって、番組のスタッフらしき人達が大声で注意事項を促している。一番前の列を陣取っていたあたしとお姉ちゃんを、すぐ近くにいたガードマンがじろりとにらみつけてきたので、慌ててスマホをカバンの中へとしまった。
「本当に来るんだね、汐……」
昨夜から全く治まってくれないドキドキと一緒に言葉を吐き出せば、お姉ちゃんは若干胸を張りながら「確かな情報ソースだからね」と応えた。
何でもお姉ちゃんの先輩の中でモデルサークルに入っている人がいて、勉強の為にいろんな雑誌の撮影を見学して回ってるらしい。そんな中、たまたま汐と同じ現場に鉢合わせして、いろんな話を聞かせてもらううちに今回の撮影の話になったんだという。
「『きれいな自然と空気の中でお試し、最高最善の健康法~グルメ&サイクリング編~』かぁ……」
さっきからバタバタと役場の前を行ったり来たりしているADっぽい人が持っているカンペ。それに書き込まれてある太い文字をそのまま口に出して読んでたら、今度は新品同様のピカピカした銀色の自転車を何台も運んできた。え? マジで?
「立って動いてしゃべってる汐をテレビ越しじゃなくて生で見るだけでも感激なのに、さらに颯爽と自転車に乗っちゃうところも見れたりするの!?」
何それ、超がいくつあっても足りないくらい幸せすぎるんですけど。神様、仏様、お姉様。素敵すぎるごほうびありがとうございます、これでお前は一生分のラッキー使い果たしたと言われても悔いは一切ございません。
心の中どころか、人ごみに紛れてるのをいい事にこっそり両手を合わせて拝んでいると、いよいよスタッフの人がここ一番の大声を張り上げた。
「はい、それではただ今よりロケを開始致します。出演者の皆様が入りましたら、何卒お静かにお願いします」
いよいよだ、いよいよ汐が……!
あたしの興奮は最高潮に達した。
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