第19話

「智夏、入っていい?」


 晩ごはんも終わって、自分の部屋で『Tiina』の過去誌を読み直してた時だった。先にお風呂に入ってたお姉ちゃんの声と一緒に部屋のドアをノックする音が聞こえてきたのは。


 いいよ~と間延びした声で返事をすれば、開いたドアの隙間からパジャマ姿のお姉ちゃんが入ってきた。あれ? あのピンク色のパジャマ、確か高校の時まで使ってなかったっけ。引っ越しの時、一緒に持っていかなかったんだ。


「お風呂空いたの?」


 読みかけの『Tiina』を閉じながらあたしが言うと、お姉ちゃんは小さく頷いてからこっちの手元をじいっと見てきた。


「『Tiina』、相変わらず読んでるんだ?」

「うん。できたら定期購読申し込みたいんだけど、お母さんがうるさくって」

「分かる。お金のムダ遣いだし、どんどんたまる一方じゃないって言うんでしょ?」

「そうそう、ひどいよねぇ」


 お母さんだって美容院に行ったら女性週刊誌思いっきり読みまくってるくせに、どうして『Tiina』の良さを分かってくれないのかな? まあ、誰かさんみたいに「つまらなそう」とか「下らない」とか言って、ろくに中身も見ないで決めつけてくるよりはずっとマシだけど。


 うんうんと頷いている間に、お姉ちゃんはあたしが寝転がっているベッドの端に腰を下ろしてきて、枕元に積み上げておいた別の『Tiina』の過去誌を一冊ていねいに取った。そしてペラペラめくりながら、「うわ、懐かしい~」と楽しそうに声をあげた。


「このモデルさん、今じゃ結婚して二児のママだもんね。なのに当時とスタイル全然変わってないとかすごくない?」

「うん、覚えてる。たまにバラエティに出てんの見るよ」

「この前スタイルを維持する秘訣ってのを言ってたから試してみたんだけど、全然ダメ。なかなか続かなくてさぁ……あっ、汐だ」

「えっ!?」


 お姉ちゃんの口から出た汐の名前に、自分でも思うけど過剰反応してしまった。俯せていた体を跳ねさせるようにしてベッドから起こしたあたしは、慌ててお姉ちゃんの横に貼り付く。その両手にある過去誌のページには、モデルデビューしてまだ間もなかった汐の初々しい写真が載っていた。


「わあ。汐、若くてきれいじゃ~ん」

「今も充分若くてきれいです! おまけにカッコいいし!」

「それはそうだけど、あどけなさとかフレッシュさが違うでしょ」


 そう言って、お姉ちゃんは写真の中の汐を指差す。確かに今と違って、この頃の汐はまだ知名度も低くて、ポージングもぎこちない感じになってたから、目立つページに載る事も少なかったけど、あたしはひと目でファンになった。『Tiina』を読み始めたのもちょうど同じ頃。あたしがファッションに興味を持って、何となくだけど将来の事を考えだしたのは汐のおかげだって言ってもいいくらいだし。


「いいの。いつの時代だって、汐は素敵なんだから」

「はいはい。そんな汐フリークの智夏にもっと素敵な情報をあげちゃおうかな」


 実はこっちの方が本当のお土産だったりするんだよね。そう付け加えてから、お姉ちゃんは超特大の爆弾をよこしてきた。


「明日、汐がこの町へロケしに来るよ」

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