第16話

今日の補修作業は落書きより、ページの破損が多かったような気がする。


 外れかかっているのが大半。後は一ページが丸々思いっきり破られていたりとか、ひどいものになると真ん中に穴が開いてたりしてる本もある。


 さすがにここまでひどいものになると、もうあたし達じゃどうにもならない。そういう時は司書の先生の所に持っていくんだけど、先生は決まって悲しそうに両目を細めた。


「こういう本って、どうしてるんですか?」

「できる限り修理するけど、無理な場合は廃棄処分する事もあるかしらね。本は皆の財産なのに」


 しょんぼりとうなだれながらそう言う先生だったけど、あたしはいまいち『皆の財産』って言葉の意味が分からなかった。


 ずいぶん時代遅れな考え方をしてると思った。今はもうスマホが主流で、本なんていくらでも電子書籍で読めるじゃん。紙みたいにかさばらないし、重くないし、場所も取らないし、いつでも好きな時に手のひらの中だけで済ませられるじゃん。


 あたしだって図書委員なんて仕事押しつけられたりしなきゃ、月に一度しか図書室に用事はない。『Tiina』の発行日である毎月十日以外。


 もちろん『Tiina』にも電子書籍版はある。それどころか、電子書籍限定のオフショット集もあったりするからそっちのチェックも欠かせないんだけど、『Tiina』だけは特別。


 表紙に映ってる付録の小物は大当たりのかわいい系が多いから(図書室に入荷された分の付録は出版社に返品してるって噂を聞いた、もったいなくない!?)、品ぞろえの悪いコンビニに猛ダッシュして何が何でもゲットするし、流行りの十代コスメ紹介ページは切り取って部屋の壁に貼り付けておきたい。


 そして何よりも、汐だ。電子書籍版で、あたしの手のひらの中に収まる汐の超カッコいいポージングをスクショしておくのもいいけど、雑誌サイズの大きな全身フォトを見てると、何だか汐にハグされてるような気になっちゃうから本当に不思議。


 世の中の全ての紙の本は別に滅んでもいいけれど、『Tiina』だけはいつまでも残っていてほしい。汐もずっと今のままでいてほしいな。


 今日の昼休みと放課後、合わせて十冊くらいの補修を済ませたあたしはそんな事を思いながら、意気揚々とカウンター前のラックに足を向けた。


 当番終了まで残り二十分。補修作業のキリは付いたし、後は拭き掃除だけ。だからもういいでしょと、『Tiina』の最新号に手を伸ばした時だった。

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