第二章
第15話
『次の連休、そっちに帰るね』
家族専用のグループLINEにお姉ちゃんからのそんなメッセージが届いた瞬間、我が家は騒然となった。
お姉ちゃんは大学生活をかなり謳歌しているようだった。大学の入学祝いにと買ってもらったパソコンをフル活用してSNSのアカウントをいくつも作り、日常の様子を一日数回の頻度でUPしている。教えてもらったアカウントを覗いてみれば、大学のサークル仲間と一緒に満面の笑みを浮かべている写真と楽し気な文章ばかりが出てきた。
『勉強も遊びも、本当に楽しい! いい仲間にも出会えたし、大学に入って超よかった♪』
確か、昨日更新されてた内容はそんな感じだったと思う。だから、夏休みとかになってもお姉ちゃんは何だかんだと理由をつけて、こっちに帰ってくる事はないと思ってた。バイトもやってみたいとか言ってたし。
だから、どうしたんだろうとあたしは不思議に思うだけだったけど、少し過保護気味の両親は心配の方が先に立ったみたいで、やたらとそわそわしたり何度か連絡を取ろうとしてた。特にお父さんなんて「悪い男にだまされて、ひどい目に遭ったんじゃないか」とか言い出す始末だし。定番ドラマの見過ぎでしょ。
お姉ちゃんの人を見る目は確かなんだから、そんな事あるはずない。そう思いながら、あたしはカレンダーに大きな赤丸を書き込んだ。
あれから何度も水曜日は巡ってきたけど、相変わらず岡本君と一緒に過ごすカウンター当番は苦痛の連続だった。
誰も来ない昼休みの間は、黙々と補修作業。そして放課後は、いつも同じ顔ぶれの生徒数人の為にいてあげてるって感じ。でもこの人達って、うちみたいな偏差値底辺の高校でも必ず何人かはいるガリ勉タイプって奴だから、参考書を棚から取ってきて使うような事はあっても、わざわざ借りようとまではしてこない。つまり、昼休みと同じくらいヒマな訳で、結局また補修作業をするしかなかった。
しかもこの補修作業、どう考えても量が多い。それだけ本を大切にしてない奴がいるんだって事も問題なんだけど、他の図書委員もやるべき量も水曜に回ってきてる感がハンパない。
その事を岡本君に言ってみたら、何て返事が返ってきたと思う!?
「僕がそうしてもらえるようにって頼んだ」
「水曜日だけ当番が二人いるんだ。一人より二人いた方が効率だっていい」
「そういう訳だから、口より手を動かして」
「そこ、まだ落書き残ってるよ」
一切表情を変えずに、淡々とそう言ってきた岡本君。その体の中に流れてるのって、赤い血じゃなくてガソリンか何かじゃないの!? そう言ってやりたいのを必死にガマンして、あたしは推理小説の一番最初のページに書き込まれてあった犯人の名前を消しまくった。
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