第12話
サボってバックレてやりたい衝動をどうにか抑え込んで、あたしは再び図書室のドアの前に立った。
ドアには細長いガラス板がはめ込まれてあるから、外からでも図書室の中が少しだけ見える。昼休みの時とは違って、ガラス板越しに何人かの生徒が図書室の中をうろちょろしているのが分かった。
昼休みと違って、放課後は十八時まで開いてるから、まあ利用しやすいんだろうなと思いながらドアを開ける。そしたらもうカウンターの中には岡本君がいて、貸し出しをしようとしている女子生徒の相手をしていた。
「返却期限は二週間後。三週間過ぎても返却の確認ができなかった場合は、担任の先生に報告が行く場合がありますんで注意して下さい」
相変わらず、棒読みと言うには足りないくらいの淡々とした口調で注意事項を話していく岡本君に、何かの参考本を受け取った女子生徒の顔が引きつっていく。コンビニか何かのお店だったら絶対にクレーム案件だと思うし、それ以前として何気にちょっと脅してない?
「あ、ありがとうございました……」と小さい声で言ってカウンターの前から離れていく女子生徒と入れ違いになると、あたしに気付いた岡本君がふうっとため息をついてから、またこう言った。「遅い」と。
「昼より利用者が多い分、作業が捗らなくなるんだ。もっと早く来れないかな?」
「ムリ」
少し食い気味にそう言ってやりながら、あたしはカウンターの席に座った。
「掃除もしなきゃだし、他にもいろいろとあるから。岡本君のペースばかりに合わせられる訳ないじゃん?」
「……」
「そっちが早すぎんの。何よ、図書室に住んでるつもり?」
そんなに大きな声で言ってるつもりはないんだけど、あたし一人しかしゃべっていない図書室の中では結構丸聞こえになってたみたいで。その証拠に、カウンターのすぐ近くにある机の所に座っていた男子生徒が困ったふうにこっちをちらちらと見ている。
まあだからって、そんなの知ったこっちゃない。好きで図書委員やってる訳じゃないのに、ああだこうだと文句言われてばっかじゃ本当に割に合わない。だから、これくらい言い返したって別に構わないじゃん? そう思いながら、岡本君の方をにらみ返してやった時だった。
「ごめん」
全く想像すらしていなかった言葉が、岡本君の口から出てきていた。
見れば、岡本君の上半身はまるで怯えてるみたいに丸くなって、カウンターの上にでんと置かれている貸出受付票の束にずっと視線を落とし続けていた。顔色もちょっとだけ青くなっているようにも見えるし、後は……何だか小刻みに震えてなくない?
「ごめん、言い過ぎた」
あたしの方を全く見ようともしないまま、岡本君がまた謝ってくる。ちょっと、何なのいきなり? そんな態度取られたら、まるであたしの方が全面的に悪いみたいじゃん。やめてよ。
そう言い返してやりたいのに、あんまり驚いてしまったせいかすぐに言葉が出てこない。そんなあたしを見越してか、岡本君は脇に置いてあった例のタワーからまた本を取り出すと、「さあ、続きをやろう」とまた黙々と補修を始めていった。
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