第9話
次の日、水曜。無情にも、四時間目終了のチャイムが校舎中に響き渡る。あたしは教室の後ろにあるロッカーからお弁当箱を取り出すと、急いで中身を頬張り始めた。
うちの高校の昼休みは十二時四十五分から十三時四十五分と、きっちり一時間。それから予鈴が鳴って、十三時五十分から午後の授業が始まる。そんな貴重な昼休みの中、図書委員は大急ぎで図書室に向かわなくちゃならない。
そりゃあ司書の先生はいる訳だから、昼休みが始まってすぐにカウンターの中にいなくちゃならないって決まりはないらしいけど、「できるだけ早く来てね」なんてムチャぶりは本当に勘弁してほしい。今日のお弁当のメインはお母さん手作りの超おいしい肉団子なのに、急いで食べなきゃいけないせいで全然味わえない。お母さんには悪いけど、これから水曜日はコンビニのパンかおにぎりにしよう。
いつもだったら美琴と一緒におしゃべりしながら昼休みいっぱいかけてのんびり食べてるのに、お弁当の中身をすっかり空っぽにした後で教室の壁時計を見てみれば、十三時を少しだけ回ってた。十五分ちょっとで食べ切るなんて奇跡じゃない? いい仕事をしたなと自画自賛っぽい事を思いながらお弁当箱を再びロッカーに押し込んで、あたしは廊下へと飛び出した。美琴の「頑張れ、智夏ぁ~」という声が背中の向こうから聞こえてきたような気がした。
うちの校舎は四階建てだったけど、図書室は三階の一番東端の突き当たりにある。そして、あたしのクラスの一年B組はその真逆で、一番西側の教室。つまり走っていけば十秒もかからないくらいで辿り着く。生活指導担当の
一年A組、そして同じ階にある二年のクラスも一気に通り過ぎて、正面に見えてきたスライド式の古ぼけたドアの前で一度立ち止まる。そして、ふう~っと大きく息を吐き出してからそのドアを思いっきり開くと。
「……図書室では静かに。それから、遅い」
何かの分厚い本を手にしている岡本君が、カウンターの中からあたしをじろりとにらみつけていた。
「はあ? 今、何て?」
あたしは自分の耳を疑った。いきなりにらみつけてきた事もそうだけど、開口一番それってどういう事? 反射的にあたしがそう言い返すと、岡本君は呆れたようにもう一度繰り返した。
「遅い」
「遅いって……まだ時間たっぷりあるじゃん。それに誰もいないし!」
あたしは図書室の中をぐるりと見渡してから、言ってやった。
今日はすごくいい天気で、窓の向こうにあるグラウンドの方から楽しそうな男子達の笑い声が聞こえてくる。きっと、あたしみたいに早々とお昼ごはんを食べ終えた誰かがサッカーかバスケでもやってるんだろうな。急がないと、他の誰かに取られちゃうだろうし。
まあ、少なくとも? まだ昼休みの四分の一も過ぎてないってのに、急いでこんな図書室に来るような人なんてうちの学校にはいないと見た。
本が焼けて変色するからとかの理由で、日が強く照り付けちゃう所はカーテンで遮る上、天井の蛍光灯のワット数も低い。そんな図書室は昼間でもちょっと薄暗い感じがするせいか、あたしと岡本君以外の人影は全然なくてがらぁんとしていた。
「ほ~ら、見れば?」
その事に何か勝ち誇っちゃったような気分になったあたしは、ふふんと鼻を鳴らしてやってからさらに言い連ねた。
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