第7話
「それでは、月曜日から順に決めていきたいと思います。希望の曜日に挙手をお願いします。候補者が多い場合はジャンケンで決めますんで、よろしくお願いします」
三年の先輩がそう言って、まずは月曜日のメンバーを決めようとする。と、言っても、一学年二クラス。その中から各委員は一人ずつしか出ないんだから、全学年合わせても図書委員は総勢六名。そして過疎化の進む町の高校でも例に漏れず週休二日制で、週に一度の当番があるのは月曜から金曜の五日間。すなわち、必ずどこかの曜日で二人当番が被る。
こんな大して魅力のない図書室のカウンター当番なんて、よっぽどの物好きでもない限り、そう何度もやりたい人なんていないに決まってる。案の定、月曜日の当番は一年生が一人手を挙げただけですぐに決まった。
さて、どうしようかな。月曜日がすぐに決まってくれたのは助かった。月曜日はファッション雑誌の新刊が軒並み出る事が多いから、放課後なんて残ってられなかったし。
じゃあ、火曜日? いや、火曜日は唯一五限目で終わる日だし、陸上部もお休みの日だから、絶対に美琴と一緒に帰りたい。電車で二駅かかるけどスタバにも行きたいし。
それじゃあ……と少し考えて、水曜日に決めた。いろいろと考えたけど、たぶん水曜日が一番支障がない。今のところ気になる連ドラとかバラエティ番組もないし、苦手な数学もないから宿題を出される事もないし。
「では、火曜日は俺という事で」
はっと気付くと、火曜日の当番は進行をしている三年の先輩に決まっていた。いけない、次で手を挙げなきゃ。そう思いながら少し身構えた。
「じゃあ、次。水曜日の当番を決めます。希望する人は挙手をお願いします」
「はい!」
「はい」
誰にも取られないようにと、できるだけ大きな声を出しながら手を挙げたつもりだった。すぐ近くであいつの声が重なってこなきゃの話だけど。
「……は?」
「……」
つい反射的にそっちを見れば、その相手――岡本君もやっぱり何考えてるか分かんない顔でこっちを見てた。何、それ。こっちがそうしたいっての。
「……ちょっと」
「何?」
あたしが先に口を開くと、岡本君は不思議そうに応えてきた。いやいや、察してほしいんですけど。
「譲ってほしいんだけど」
「何で?」
「何でって……水曜が一番都合がいいから」
「僕もだけど」
短い言葉だけで淡々と返してきて、一向に引き下がる気配なし。何、こいつ。普通に考えて、男子は女子に譲るもんでしょ? 何なの、まるで「そっちが引けば?」みたいなその態度。どうせ大した用事ないんでしょ。
「あたし、水曜がいい」
「僕も」
「譲ってよ」
「嫌だ」
ヤバい、だんだんイライラしてきた。次に断られたら、ものすごい大声出しそう。そう思ってたら、三年の先輩が言ってきた。
「じゃあ、水曜は岡本君と安藤さんという事で」
……へ? いや、何それ。ちょっと待って。何でそうなるの?
気が付かなかったけれど、ぐるっと周りを見てみれば、水曜を希望していたのはどうやらあたしと岡本君だけだったみたいで。そして、うちの図書室のカウンター当番はどこかの曜日で必ず二人が被る。だから、つまり……。
「分かりました、それでお願いします」
先輩の言葉に、岡本君が素直に従う。ちょっと、何で勝手に分かりましたなんて言ってんの!?
「嫌なら、そっちが木曜か金曜にすればいいだろ」
文句を言ってやろうとしたけれど、しれっとした態度で先にそう言われてしまう。そうしたいのは山々だったけど、どうシミュレーションしても木曜と金曜はなかった。
「……あたしも、それでいいです」
まるで錆び付いた自転車のペダルみたいに、あたしはたどたどしくそう答えるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます