第6話

「……そういう訳で、今年度の図書委員会はこのメンバーでやっていこうと思います。先生方にも生徒の皆さんにも、気持ちよく有意義に使ってもらえる図書室を目指していきましょう」


 正直、長々と続いていた顧問の先生のお話なんて、ほとんど頭に入っていなかった。最後に先生がそう言った時、周りの人達が分かりましたとばかりに盛大な拍手なんかするもんだから、それでやっと我に返ったって感じだし。


 机を挟んだ隣の席じゃ、ついさっきあたしの気分を盛大に悪くしてくれた張本人が、何を考えてるのか分かんないくらいの無表情でマイペースな拍手をしている。何よ、あれ。お祭りの屋台とかでよく見かけるシンバルを持ったサルのおもちゃの方がよっぽどリズミカルだし、それ以上に愛想もあるってもんなんだけど。


 ああ、もう最悪。こいつが変に絡んできたせいで『Tiina』のチェックちゃんとできなかった。今月号は汐の最新春コーデ特集が載ってたし、小物系でいい感じの奴があったら思いきって買っちゃおうかなって思ってたのに。そんなワクワクを楽しみたかったのに、全部台無しじゃん。


 イライラしながらカウンターの方を見てみると、図書委員会の委員長となった三年の先輩が先生から進行役を引き継いで、昼休みと放課後を担当するカウンター当番の班決めをしようと言い出したところだった。


 うちの高校の図書室は、基本的に朝の九時から夕方の六時頃まで開いている。図書室と一枚のドアで繋がっている準備室には、いつも司書の先生達がいて、やれ本の修理だの返却本をチェックするだのと、ものすごく地味な作業を毎日繰り返してる。


 でも、その地味な作業は何気に量が多くて、生徒や先生達の貸出返却、果てには図書室の掃除なんかにまで手が回らないらしい。だからあたし達図書委員会がそのお手伝いをする。その一つが、曜日別に決められたカウンター当番って訳。


 これが結構面倒くさかったりするんだよね。週に一度の事とはいえ、貴重な昼休みは潰されるし、放課後は放課後でさっさと帰って遊ぶ事もできやしない。ただひたすら「返却日は二週間後です」「貸出票にクラスと名前を書いて下さい」「ありがとうございます」を繰り返して、貸出OKのハンコを押していく……。


 何これ、つまんない。やっぱり最悪。思っていた以上につまんなくて、心が簡単に折れちゃう。こんな事なら、熱なんかちょっとガマンして学校に来ればよかった。

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