第4話
話した事は一度もないけれど、やっぱり無愛想で無口な奴だなと思った。
詳しい事は知らないし知るつもりも一切ないけど、いつも一人で本ばっか読んでクラスの誰とも話さない変わり者だって聞いた事がある。あと、何かひどい怪我で長期入院してて、それで一年留年してるって話も。
……て、事は、あたし達より一歳年上って事になるんだろうけど、あんまりそうは見えない。
怪我してたせいなのかは分かんないけど、男のわりにはちょっとひょろりとした細身だし、色白で机の上に投げ出している両腕もあたしと同じくらいの細さだし。顔面偏差値は……うん、田淵に比べたら全然マシ。イケメンって訳でもないけど、この世のものとも思えないブサイクという訳でもない。どこにでもいそうな普通の顔に、何だか安っぽい縁なしメガネがかかっていた。
そういう奴が今机の上で広げているのは……何あれ。『古代文明における生成過程とその深淵』? え、本当何それ? そんな超絶難しそうでつまんなそうな本、うちの図書室にあったんだ?
うちの高校の図書室は、そんなに広くない方だと思う。せいぜい、普通の教室の三倍をちょっと超えるかなってくらいの広さで、置いてある本だって大した事ない。あたしにとって唯一得だと思えるのは、毎月十日にはあたしが一番好きなファッション雑誌『
『Tiina』はファッション業界でも相当注目されている超有名雑誌で、日本人なら誰でも知ってるような人気デザイナーやクリエイターが手がけたおしゃれなデザインの服や小物を紹介してる。それらを身に着けて写真に写っている『Tiina』の専属モデル達は、毎日どれかのテレビ番組やネット配信チャンネルに出演してるくらい人気が高いし、その中でもトップの人なんかは二足どころか三足も四足も
あたしが一番好きなモデルは、『Tiina』でも数少ない男性モデルの
本名や年齢、その他プライベートな情報は一切非公開でミステリアスな部分が多いんだけど、そこがまたいい。百八十七センチのすらりとした高身長はワイルド系やカジュアル系、フォーマルも何だって着こなして優雅に写真に収まる。自分の足元を流し見てるようなポージング、カメラをじっと強く見つめてくる目力。その上、モデルの他にいくつもおしゃれなエッセイやコラム連載を持ってるし、来年には初主演映画の公開だって控えてる。
何もかもが完璧すぎて、そんな汐にときめかない方がどうかしてる。とてもあたしと同じ地球上の空気を吸ってる同じ人類だなんて思えない。
そして今、同じ図書室にいる無愛想で無口な年上の同級生――岡本君も、汐と同じ男だなんて思えない。生物学上は同じオスなはずなのに、どうしてこんな格差って奴が生まれんの? これって、もうDNAの問題? だったら、何かちょっと可哀想な気がしなくもないんだけど。
そんな事を思いながら、あたしは図書室のカウンターの前にあるラックから『Tiina』の最新号を摘み上げ、岡本君がいる席から少し離れた窓際の所に座った。
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