第3話

キンコンカン、キンコンカ~ン……。


 過疎化が進んでいる町のど真ん中にぽつんとした感じで建っているうちの高校のチャイムは、まるで例に漏れませんとばかりに、誰がどう聞いたってマヌケで超ダサい。でもそれも、放課後を知らせてくれる最後のチャイムだと思えば、まだちょっとはマシかもしんない。田淵のこんな言葉さえなけりゃの話だけど。


「企画委員、放送委員、保健委員に図書委員は放課後ミーティングがあるからなぁ。忘れずに、ちゃんと行けよぉ?」


 うっさい、小デブハゲ。何でこっちに顔向けて言ってくるかな? 視線合わせたくないんだけど。あたしは田淵の全くイケてないビジュアルを視界に入れたくなくて、手のひらの中のスマホをいじる事に集中した。


『せっかくの放課後なのに、委員会のミーティングとか超ユウウツ~』


 そんな事をTwitterに呟けば、同じ事を思っている人は他にもいるようで、すぐにいくつかの『いいね』がついた。


 そろそろ通販で注文してた、お気に入りブランドの新作スカートが届いてる頃だよね。家に帰ったらさっそくチェックして、またTwitterにあげなきゃ。


 そう思いながら、あたしは日直当番のまるでやる気がない「起立」という声に合わせて、椅子から立ち上がった。





 


 若い人がどんどん少なくなってるんだから、当然と言えば当然なんだけど、うちの高校は全学年共にふたクラスずつしかない。


 おまけにひとクラスあたり二十人いるかいないか。学年ごとにクラス替えをしたところで、ほぼ全員の顔と名前を覚えているんだから新鮮味なんてものは全然ない。偏差値だって底辺極まりないもんで、中間・期末テストで全教科オール0点でも取らない限り落第とかもありえない。


 だから、しぶしぶ図書室に入った時、そんなありえない事情に当てはまる奴の顔を最初に見つけた時は、思わず「げっ!」と声を出した。


 今日は委員会ミーティングがあるから、放課後の図書室は開放されていない。利用してる生徒が誰一人いない図書室はしんと静まり返っていて、案外あたしの短い声はとてもよく響き渡った。


 だからなのか、図書室の一角にある閲覧用の座席に座っていた隣のクラスのそいつ――二年A組の図書委員、岡本誠也おかもとまさやは実に不愉快そうにあたしの方をじろりとにらみつけていた。

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