第2話

あたしの住んでる田舎町は、いわゆる過疎化って奴が進んでいる。


 毎年出生率が落ちているせいで、どんどん若い人が少なくなってるし、トドメってくらいにこの町には娯楽がない。品揃えが悪すぎる寂れたスーパーやコンビニがちらほらあるくらいで、映画館や美容院、カラオケやボーリングに行くのだってわざわざ隣の市まで電車で行かなくちゃいけない。それも一時間近くかけて。


 一度だけ、十五年以上続いているバラエティ番組の企画で、何人かのお笑い芸人達がこんな何にもない田舎町に来た事があった。


 確か、『緑豊かな自然溢れる田舎町で、おいしい地元メシを食べ尽くそう!』って感じのタイトルじゃなかったっけ。正直、大ハズレだったと思うよ? 地元メシどころか、ろくな名産品もないんだもん。いつも見慣れている大した事のない料理を芸人達が大げさなくらい「うまい、うまい!」と叫びながら食べている姿は、テレビ越しに見てもかなり下らなくて笑えなかった。


 あたしのお姉ちゃんも、そうだ。今年、県外の大学に無事に入学が決まったお姉ちゃんは、半月くらい前に家を出て行った際、ものすごく晴れ晴れとした顔をしていた。


「これでやっとこの町ともバイバイできる~。ああ、もう幸せ~♪」


 それが、お昼過ぎに発車する電車に乗り込んだお姉ちゃんが、見送りに来たあたし達家族に向かって言った最後の言葉。本人にそんなつもりは一切ないのは分かってるんだけど、何だか憐れまれたような気がしてたまんなかった。きっと、二度とこの町には戻ってこない。大学を卒業したらそのままそっちで就職して、結婚するんだろうな。


「せっかく駅前まで出てきたんだし、このまま外食でもするか」


 小ぢんまりとした駅の駐車場に向かう途中で、お父さんがそう言ってきたのを覚えてる。いつもならムダ遣いはダメって言うくせに、お姉ちゃんがいなくなって寂しくなったのか珍しくお母さんも賛成して、駅前近くのチェーンレストランに入った。


 こんな田舎にまで展開してくれるのは非常にありがたいんだけど、正直言ってあんまりおいしくないメニューばかりが並んでいるレストランだったりする。その中でも少しはマシなたらこスパゲティを食べながら、あたしは思った。


 絶対にあたしも出てってやる。高校を卒業したら、おしゃれでキラキラしているファッション系の専門学校に入学して、そのままどこかの服飾関連会社に就職する。そして、こんなつまんない町で十代を過ごしていたなんて黒歴史をなかった事にしてやるんだと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る