第13話
そう思うが否や、彼は強烈な焦りを感じた。
それまで彼にとって人間とは「食事」であり、仲間を増やす為の「在庫」でしかなかった。しょせんはか弱い人間なのだからと、それ以上の価値を見出した事がなかった。
だが、彼が己の不死性を悟ったと同時に、人間達も「普通のヴァンパイア」が決して不死の怪物ではないという事を知ってしまった。
「普通のヴァンパイア」は真祖である彼と違って、何故か処女や小さな子供の血しか飲めないという制約があった。それを知った人間の男達は、こぞってヴァンパイア狩りを始めた。若い女性や子供達に囮役を頼み、ヴァンパイアが現れたところで一気に襲いかかり、躊躇なく殺していったのだ。
そのたび、彼は慌てて人間の世界に現れ、新しい仲間を作っていった。このままだと仲間が根絶やしにされると焦り、一晩で十人以上の血を無理に啜って胸やけを起こす事もしばしばだった。
だが、いくら彼が仲間を増やそうが、それは焼け石に水だった。いつの間にか人間達は爆発的に増えていて、ヴァンパイア狩りに対する執念は恐ろしいものと化していた。
仲間を一人増やせば、十人が殺されるという負のスパイラル状態が何百年も続いた頃、彼は数少なくなっていた仲間達に伝達した。
「人間は、僕達にとって恐ろしい逆襲者となった。だから、これからは人間達に決して正体を悟られぬよう、頻度を控えつつ、誰にも見られないように食事をするように!」
これまでのヴァンパイア達は、人間の町を鼻歌混じりで自由に練り歩き、うまそうな人間を見つけた途端、隠れる事もなく堂々とその場で血を啜っていた。だが、彼がそう伝達したと同時に時代はめまぐるしく移り変わり、ヴァンパイア達の「食事」の模様は激変した。
人間の世界では、一年間に何百万人もの人間がその姿を消していく。寿命だったり、事故死のせいだったりもするが、中には行方自体をくらませる人間もいる。その行方知れずのうちの何割かが、ヴァンパイア達の「食事」となっていった――。
彼が日本という小さな国で、ある一人の若いシスターを見つけたのは、ヴァンパイア達のそういう「食事」がやっと定着した平成の世の事であった。
ヴァンパイア狩りに対して、最も強い執念を抱いていた教会という組織にいる人間――!
真祖である自分には、教会の奴らの攻撃を恐れる理由はない。隙を見つけたら、たっぷりその血を啜って、仲間にしてやる!
そう思ったのが、彼の人生の転機の始まりだった…。
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