第8話

「それでそれでっ!?どうだったの、大牙君!?」


 男は、待ちきれないといった感じに話しかけてきた。


「今日の帰りに、清水さんって子に告白してくるんだったよね!?どうだった?うまく言えた?」

「……」


 大牙は何も答えず、左の脇に抱えていた学生カバンをたぐり寄せて、その中に右手を突っ込む。


 そのまま少しの間、何やらごそごそとしていたので、男は不思議そうに首をかしげていたが、やがて大牙がゆっくりと取り出してきた数々の物を見た途端、彼の顔色は一気に青ざめて数メートルほど勢いよく後ずさった。


「た、た、た、たたたた、大牙君!?お、落ち着こう、ねっ!?まさかと思うけど、また失敗しちゃったのかな!?」

「……」

「だ、だから僕は今朝言ったじゃない!十字架のペンダント一つじゃ心もとないよって!念の為にニンニクも食べていった方がいいよって!」

「この平成の世で、ニンニク臭い息しながら告白する男子高校生がいると思ってんのか…?」


 学生カバンを礼拝堂の床に放り投げた大牙の両手には、以下の物があった。


 太い木材でできた杭とトンカチ、聖水の入った大きめのビン、日曜大工用のミニのこぎり、「超強力!」というラベルの貼られたサンオイル。そして、つい先ほどまで自分の首にかけていた銀製の十字架のペンダント…。


「せめてもの情けだ。この中から選ばせてやるよ…」


 男に一歩一歩、じりじりとにじり寄りながら、大牙は低い声で言った。


「心臓に杭を打ち込まれて、そのまま放置されるか!?」

「…嫌だよ!それ抜くの、地味に苦しいし痛いんだから!」

「それとも心臓くり抜いて、そのまま聖水漬けにして飾ってやろうか!?」

「それもやだ!僕の心臓酒なんて、大しておいしくないよ?」

「だったら、そのうざい牙をこいつで切り取ってやるよ!」

「大牙君、いつから歯医者さんになったの!?」

「これ塗りたくって、庭に縛り付けるってのもいいよな?」

「僕のお肌は人間より敏感なんだから、それもやめて!シミそばかすどころか、火傷しちゃうでしょ!」

「ああ、ますますうざい!だったら、この十字架で動けなくした後、簀巻きにして捨ててやる!」

「やめて~!大牙君、どうしてそんなに僕をいじめるの!?僕達、れっきとした…」


 男がそれ以上の言葉を口にする事はできなかった。大牙が、その手に持っていた物全部を思い切り強く投げつけて、そのまま後ろにひっくり返ってしまったからだ。


 ふーっ、ふーっ、と大きく息を荒げながら、大牙が叫んだ。



「うるせえ!このボケヴァンパイア!このクソ親父~!」



 そう、この二人はれっきとした血の繋がりを持つ親子であった。

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