第7話
バアァァン!!
できる限り乱暴な力加減をもって、大牙は教会の一番奥に位置している礼拝堂への扉を開けた。
この礼拝堂の窓には、色とりどりのステンドグラスが使われている。
満月の夜になるとその光を吸い込んで、礼拝堂の中を芸術的に美しく照らしてくれるのだが、その中心にいる一つの真っ黒で大きな人影を見て、大牙は「やっぱりな」と思った。
「…ふんふふん、ふ~ん♪らんららん、ら~ん♪」
人影は、その両手で一本のモップを巧みに操って、礼拝堂の床をていねいに磨き上げていた。
ピカピカに磨かれていく木製の床を見るのがよほど嬉しいのか、人影はのんきに鼻歌なんか唄いながら、さらに腰を入れて隅の方まで細かくモップを動かしていく。その事に夢中で、ずかずかと近付いてくる大牙には気が付かない様子だった。
「…おい!」
人影のすぐ背後にまで近付いた大牙は、やたらと低い声で話しかける。それで、ようやく人影はモップを動かしていた手を止めて、くるりと大牙の方を振り返った。
それは、一人の男だった。
背は、大牙より高いくらいだろうか。黒く、短髪の彼とは違い、腰まで届く銀色の長髪がステンドグラスの吸い込んだ満月の光を浴びて、キラキラと強く輝いている。
二十代前半の年頃に見える男は、夜の礼拝堂という場には全く不釣り合いな真っ黒いモーニングコートを身につけ、さらにその肩には彼の背丈より長いマントを羽織っていた。そのマントが、大牙が礼拝堂に入ってきたせいで乱れた空気に煽られて、わずかにひらひらと揺れた。
「…やあ、お帰り大牙君♪」
男は、鼻息が荒い上に、ぎろりとにらむように見上げてくる大牙に臆する事なく…というより、まるで気が付かない様子だった。
持っていたモップをすぐ近くの長椅子に立てかけ、男は首を突き出すようにして大牙の方を見やる。その表情は大牙とは真逆であり、非常にワクワクとしたものであった。
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