第2話
「…ひどい。いくら何でも聖水はひどすぎるじゃないか、シスター・マリエ~~~!!」
獲物を狙う猛禽類のような鋭い眼差しが一転。
例えるなら、そう。まさに飼い主に捨てられようとしている子犬のごときつぶらな瞳が、ウルウルと涙の膜を張って潤んでいる。
おまけに、耳まで裂けそうなほど開いていたはずの口はすっかりへの字に折れ曲がっていて、その者がこの上なく拗ねてしまった事を物語っていた。
その者の全身からは、まだあちこちから先ほどの白煙が立ち上っている。それに気付くと、彼は「あちち、あちゃあちゃっ!」と喚きつつも、両手をバタバタと動かして必死に払いのけようとする事に懸命だ。
そんな彼に、シスター・マリエと呼ばれた彼女は大きな呆れとほんのちょっとの怒りを交えた大声で言い放った。
「何がひどいですか!例え聖水を何十、何百リットルと浴びせたところで、どうせ大したダメージも受けないくせに!ちょっと熱いくらいで、我が神からの愛に文句を言うものではありません!」
「…いや、いやいやいや!文句は言うよ!僕にとって神様は、とてつもなく面倒くさい敵なんだから!」
「そうおっしゃるのなら、その神様に仕えし立場にある私に、もういい加減近付かないで下さい!今すぐ、闇の世界にお帰りなさい!」
そう言うと、シスター・マリエは胸元にあるペンダントのトップをぎゅっと握りしめた。月の光にかざされた銀色の十字架が、握りしめている彼女の手を鈍く光らせる。
その者は十字架の光に「うっ…」と一瞬言葉を詰まらせるが、何かを振り払うかのように頭を二度三度激しく振ると、再びシスター・マリエを懇願するかのように見据えた。
「…嫌だ。二度と闇の世界には帰らない。その覚悟を持って、君の所にこうして通ってるんじゃないか!えっと…もう半年になるっけ?」
「今夜で199日目です…」
「やった!じゃあ、明日は僕達が出会って200日目になるんだね!シスター・マリエ、その記念すべき日に僕とけっこ…うっぎゃあ~~~~~~!!」
その者は最後まで言葉を紡ぐ事はできなかった。彼の額に、シスター・マリエがペンダントの十字架をこれでもかという強さで押し付けたから。
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