第112話

俺の中学校三年間の成績は、ものすごく端的に言うのであれば可もなく不可もなしといったところだった。


 しょっちゅう読書にふけっていたから現代文は得意科目ではあったものの、他の教科はまさにそこそこといった感じで、志望校として挙げられる高校も当然その程度のものとなった。


 中学三年生になって最初の実力テストの結果が返ってきた時、担任ののっぺらぼうがずいぶんとおせっかいな事を言ってきたのを覚えている。


「垣谷、もうちょっと頑張ってみないか?そしたら、もっといい高校に行けると思うし、将来の幅がうんと広がるぞ」


 本当、よけいなお世話だと思った。


 この頃、俺にはまだ自分の将来というものがはっきりしていなかった。


 俺の頭の中の不具合は、一生の付き合いだ。学生が終わって社会に出るとなると、きっと今以上に生きにくくて面倒くさい事に何度もぶつかるんだろうなという事だけは否応なしに決定していたから、どんな仕事に就いたところで似たり寄ったりだと思っていた。


「…別にいいんで、まだそういうの」


 担任ののっぺらぼうから実力テストの成績表を奪うようにして受け取ると、そいつの方から深くて長いため息の音が漏れ出たのが聞こえた。本当、よけいなお世話だ。







 圭太とは、中学の三年間で一度も同じクラスにはならなかった。


 あいつがいなくなってからも、圭太は相変わらずクラス委員なんかを続けていた。


 一年の時は運悪く押し付けられただけだとか言ってたくせに、二年になったら自分から立候補したらしく、持ち上がりで三年になってもそのままクラス委員の座に修まっていた。


 圭太のクラスの誰かが、生徒会長にも立候補したらどうかと勧めてきた事もあったらしい。でも、圭太は丁重に断ったという。


「ものすごいお手本を知っちゃってるからね。僕なんかじゃとても務まらないよ」


 照れ臭そうにメガネを押し上げながら、圭太はそんな事を言っていた。何だよ、やればいいのに。もったいねえ。


 お前の方がもっといろいろとやれば、将来の幅がうんと広がるだろ。そうも言ってやったら、圭太は首を横に振った。


「買いかぶりすぎだよ、垣谷君。僕の成績知ってるでしょ?こんな奴が生徒会長だなんて、学校の恥になるだけだって」


 そう言って、別に見せてくれと頼んだ訳でもないのに圭太は実力テストの成績表を俺に押し付けてきた。俺とどっこいどっこいの内容だった。


「高校は、同じクラスになれるといいね」


 圭太はあははと笑ってから、俺の肩をポンポンと叩いた。

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