第六章 お元気でしたか
第111話
あれから、二年という月日があっという間に過ぎた。
あいつがいなくなってからというもの、俺の中学校生活は何となく色が褪せてしまったような、とにかく小学校時代と同じくらいつまらないものになってしまった。
あいつの代わりに生徒会長になったのっぺらぼうは、かなり緩い性格のようだった。例えば生活指導強化週間の中、俺と圭太が二人乗りで学校に登校してくるのを見かけても、特に何も言おうとしない。一瞬、引き止めようかと腕を伸ばしてくるも、結局はすごすごと引き下がるヘタレだった。
一度だけ、そんな奴の話題を圭太と交わした事がある。圭太はププッと短い笑い声をあげた後で、こう返してきた。
「それは垣谷君のせいでもあるよ」
「俺のせい?何で?」
「分からないと思うけど、生活指導強化週間中の垣谷君って結構表情が険しくなってるんだ」
「…で?」
「まるで、瀧本先輩以外が、気安く注意してくんなって言いたげな顔なんだよ」
「…ふぅん」
さして興味がないとばかりに、俺は適当な生返事を返す。この時も、俺は圭太の黄色い自転車の荷台に腰を下ろしていて、圭太はただひたすらに前を向いてペダルをこいでいた。よかったと思った。
中学校生活も終わりに差しかかってくると、大抵の奴らはある
のっぺらぼう達は、話の折り合いが少しでも悪くなったり何かしらの変化が起こりそうになった時、すぐさま相手の顔を見て、どんな様子なのか観察をするという。
そして、その様子を瞬時に読み取り、頭の中でいろいろ計算して、自分の人生の経験上、最も役立ちそうな記憶を思い起こして、それに準じた行動を取るのだと、田室先生から聞かされた事もあった。
ずいぶんと器用で面倒くさい事だなと思う半面、父さんや母さん、圭太もそうやって生きているのだろうかと少し心配になったのを覚えている。
俺の頭の中の不具合は、俺から遠慮とか思慮深さとか、とにかく思考するという能力を根こそぎ奪った。相手の顔色なんて知る前に、ろくに考えもしないでありのままに浮かんだ言葉を言い放ち、時には暴力にまで発展する事もしばしばだ。
でも、もしのっぺらぼう達と、そういうふうに対話ができれば。ふと、そんな事を思った。
お互いが傷付け合わない適度な距離を保ちつつ、相手に自分の気持ちがはっきり伝えられる距離から行動に移す。
ちょっと想像しただけで、何ていい事なんだろうと素直に思えたが、それができたら苦労はない。俺は中学校卒業の日まで、圭太にすがる日々を繰り返した。
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