第89話
「う、わあっ!!」
「え、ええっ…!?」
俺がなぎ払った手ののっぺらぼうは、きっと俺以上に驚いた事だろう。いきなり叫ばれた上にそんな扱いをされたんじゃ、少なくとものんきに笑っていられるはずがない。
でも、俺にはそれくらいきつい事なんだ。圭太にだって、後ろからいきなり肩を掴むのだけはやめてくれって言ってあるくらいなんだから。
その理由を詳しく知っている田室先生は、俺のその様子を見たとたん、のっぺらぼうに向かって話し始めた。
「ああ、瀧本。驚かせてすまん。その子は急に身体に触れられるのが苦手なんだよ。悪いが、こっちに回ってゆっくり話しかけてやってくれ」
田室先生の右腕が手招きしているのが分かったのか、のっぺらぼうはこくりと頷いた後で言う事に従った。そして田室先生のすぐ横に並ぶと、落ち着いた口調でもう一度話しかけてきた。
「ごめんよ、そこまでびっくりするとは思わなかったから…。初めまして、
「あ、いえ。俺の方こそすみませんでした。えっと…垣谷俊一です」
「よかった、やっぱり垣谷君だった。純から話は聞いてるよ」
「え?」
「ほら。この前の試合で、純ともめてただろ?」
のっぺらぼうのその言葉に、俺はあの時の事を思い出した。確か、あいつ…。
『ああ、早く試合始まらないかな。お兄ちゃんのチームが優勝したらね、祝賀会に連れてってもらえる約束なのよ』
そうだ。あいつのこの言葉がきっかけで、俺達言い合いになったんだ。それで、田室先生とあいつの従兄弟だっていうのっぺらぼうが止めに来たんだっけ。じゃあ、この目の前にいるのっぺらぼうはあの時の…?
「あ、あの時は、その…」
今度は、嫌な汗が俺の首筋を伝った。
やばい、まさかこんな形であいつの従兄弟に会うなんて思いもしなかった。あいつに謝るより先に、この従兄弟ってのに謝る事になるなんて思っても…。
「あの時はごめんよ。純に代わって謝るから、どうか許してやってくれないかな?」
そんな言葉が聞こえてきたと思ったら、のっぺらぼう――いや、直哉さんは一回目の時よりも申し訳なさそうな声で謝りながら、ぺこりと頭を下げてきた。
「え…?」
訳が分からなかった。先にケンカを吹っかけたのは俺の方だし、今になって考えても俺が悪い。
それなのに、どうして直哉さんが謝るのかその理由が分からなくて、俺はひどく面食らってしまった。
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