第83話

「…あ、あのっ!瀧本先輩、グランプリおめでとうございます!!」


 三人で肩を並べて体育館を出た直後、圭太がものすごい大きな声を出してそう言った。


 左から順に、俺、圭太、あいつの並びだったから、真ん中でいきなりそんな大声を出された俺の右耳はキーンとなって、思わず二、三歩よろめく。だが、圭太は俺の様子なんて全く気にも留めず、あいつの方をガン見していた。


「ほ、本当に、素敵な歌声でした!僕、ものすごく感動しちゃって…!何て言っていいか分かんないくらいなんですけど…、とにかく本当によかったです!!」

「あはは、ありがとう。私もグランプリ獲れて、ホッとしてる」


 あいつはいつものごとく、足を引きずるような歩き方をしていた。気を付けていないと、俺も圭太もあいつの事を置いていきかねないので、ゆっくりと歩幅を合わせていく。何だか、目に見えないひもで二人三脚(いや、この場合は三人四脚か?)をしているような気分になった。


「グランプリなんて獲れて当然ですよ!誰よりも上手だったんですから!」


 あいつと顔を合わせた事で先ほどの興奮が蘇ってしまったのか、さっきから圭太一人だけがベラベラとしゃべっているような状態だ。それをあいつが聞き受けて、適切な返事をしているのを、俺は押し黙って聞いていた。


 何だか、ちょっとおもしろくなかった。


 俺は圭太と違って口が達者じゃないし、仮に開いたところでろくでもない事を言い出しかねないと自分でも分かっているから、こういう空気の時は何も言わないのが吉だと今まで思っていた。


 でも、圭太の言う『素敵な歌声』を聞いて、何も感じていない訳じゃない。俺なりに思うところ、感じるところがある。なのに、それらを全て圭太に先を越されてあいつに次々と話されていく事が、何だかおもしろくなかった。


 そんな気持ちがつい態度に出ていたのか、ふてくされて二人から顔を逸らしてしまっていた俺に目ざとく気付いたのは、あいつだった。


「ねえ、俊一君」


 まだ何か伝えそうだった圭太の言葉をやや強引に遮って、あいつが俺の名前を呼ぶ。


 圭太の前で「俊一君」と呼ぶのはやめろ。長い付き合いの圭太だって、まだ一度も呼んだ事ないのに…!


 そう言おうとして、二人の方を振り返った時だった。


「私の歌、どうだった?」


 昼という時間をとっくに過ぎた夏の日差しに反射して、あいつの腕の中のトロフィーがきらりと光る。そんなキラキラした空気の中で、あいつが俺にそう問いかけてきた。

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