第53話
「…なあ。あいつって、いつもあんな感じか?」
小一時間後。俺は圭太の家にお邪魔していた。
圭太の家には週に一回か二回の頻度で寄り道をする。『満腹軒』の入り口をくぐれば、夜のピークに備えておじさんとおばさんが仕込みをしているのが見え、圭太と一緒に「ただいま」と言えば、息の合った夫婦はほぼ同時に「お帰り!」と返してくれた。
「俊一君、今日も餃子持って帰るかい?」
そう言うのはおじさんで、それに対しておばさんが「この人のおごりだから安心していいよ」と意地悪い口調で付け足す。今日は負けたんだなと、すぐに分かった。
おじさんのげんなりした呻き声を聞きながら、俺は圭太に連れられて二階に上がる。階段を昇り切って、すぐの角を右に曲がれば、正面に圭太の部屋のドアがあった。
小学校に上がってからというもの、お互いの部屋にはよく行き来するようになった。俺の部屋はどちらかというと小説やゲーム、服なんかでごちゃごちゃと散らかっているっていうのに、圭太のさほど広くない部屋はいつ来てもきちんと整頓できている。
見習わなくちゃと思うのだが、性格の差って奴はやはり現れてしまうというものか。何度試みても結局元の散らかりように戻ってしまうので、こいつの几帳面さはもはや神がかっているとしか思えなかった。
「…はい、お待たせ。ところで、話って何?」
壁に立てかけてあったローテーブルを引っ張り出し、部屋の真ん中にゆっくりと置いた圭太が俺の方を向きながら尋ねてくる。そんな圭太にハッと我に返って、俺は先の言葉を口に出した。
「え?あいつって?」
「あいつだよ、生徒会長の」
昼休みと全く同じやり取りを繰り返すと、圭太がふう~っと細長いため息を漏らす。分かってるよ、次に言ってくるお前のセリフくらい。ほら、当たった。
「瀧本先輩だってば…。先輩をあいつなんて言っちゃダメだよ」
「そんなのいいから。で?どうなんだよ?」
特に深い意味があって聞いている訳じゃない。ただ、初めてだなと思っただけだ。
俺の頭の中の不具合を知らない事を置いといても、のっぺらぼうの方から俺に興味を持ってきたという事が。
一学期の始め、同じ小学校から来たってだけで寄ってきたのっぺらぼうどもとは明らかに違う。
俺と圭太の事で怒って、謝って、不安がって、心配して、ホッと胸を撫で下ろすくらい安心して、無防備に顔を近付けてきたセーラー服ののっぺらぼうが不思議だったんだ。
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