第50話

「それじゃ、いっただっきま~す!」


 中庭に移動した俺達は、そこにいくつか置かれてあった木製のベンチに横並びに座って昼食をとり始めた。


 結局、圭太は俺の焼きそばパンを受け取らず、おばさん特製の弁当をパクパクと食べている。店の残り物か新作の試作品かは分からないが、チャーハンにシュウマイ、麻婆豆腐と家柄が分かりやすい中身だ。それらのおともに甘い乳酸菌入りジュースを飲む圭太の舌は強者だと素直に思った。


 俺はビニール袋から目的を失った焼きそばパンを取り出して、かじりついた。うん、やっぱりうまい。実に俺好みの味だ。


 俺が夢中になって焼きそばパンをかじっていると、そんな俺の姿が面白かったのか、隣からププッと小さな笑い声が聞こえてくる。反射的にそっちを振り返ってみると、圭太の顔がこっちを向いていた。


「よかった。元気になった?」

「え、いや…。別にへこんでるって訳じゃ」

「安心したよ」


 そう言って、再び弁当の中身を口に入れる圭太。安心したって…何言ってんだ、こいつ。安心できないのはお前の方だっただろう。


「お前、クラス委員やってるんだって?」


 ちらりと横目で見ながら尋ねてみれば、圭太はすぐにこくりと頷いた。


「まあ、運悪く押しつけられちゃっただけだよ。あれ、何で知ってるの?まだ話してなかったよね?」

「あいつが言ってた」

「あいつ?」

「あいつだよ。ほら…生徒会長の」


 瀧本純。


 そう、名前を言えばよかった。そしたら、圭太だってすぐに理解して話を進められただろうし、特に何か不都合な事がある訳でもない。


 それなのに、何故か俺はあいつの名前を口に出す事ができなかった。焼きそばパンが口の中に残っている訳でもないのに、何か塊のような物に塞がれている感覚があって、あいつの名前が紡げなかった。


 それでも、生徒会長というフレーズで分かってくれたのか、圭太は「ああ、瀧本先輩ね」と言ってくれた。


「クラス委員って月に何回か集まって、生徒会と議会をするのがこの学校の習わしなんだって。それで知り合ったんだけど」

「……」

「安心してよ、垣谷君。今回の事でちょっと怒られたりはしたけど、それでクラス委員をクビにはならないし、また一緒に帰れるから」

「……」

「先生や瀧本先輩には、僕達はちゃんとした友達ですってしっかり言ってあるから大丈夫!今日も一緒に帰ろうね」


 それを聞いて、俺は少し…ほんの少しだけ思った。


 俺と圭太は、のっぺらぼうどもから見ると『友達同士』には映らないのかと。

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