第47話
「…ほら。とにかくここに名前を書いて、それから反省の言葉を書きなさい」
生活指導担当だという教師ののっぺらぼうの、ひどく呆れ返ったような声が聞こえる。それと同時に、一時間目開始のチャイムが校舎中に響き渡った。
あれから俺は圭太と引き離され、生活指導室という部屋に初めて連れていかれた。
大きな長机と向かい合うように置かれた二つの椅子。それと壁際に沿って並べられたいくつかの本棚以外は特に何もない無機質な部屋は居心地が悪く、息が詰まりそうだった。少しでも呼吸を楽にしたくてふいっと視線を逸らしたら、またのっぺらぼうの呆れた声がした。
「あのな、垣谷。別に先生はお前をそこまで責めてる訳じゃないんだ。二人乗りなんかして、万一怪我でもしたら大変だろ?」
「……」
「瀧本だって、そこを言いたかったんだと思うぞ?それをあんなふうに…」
「瀧本?誰だよそれ?」
「お前…、生徒会長の顔くらい覚えてやれよ」
生徒会長の瀧本。それに、あの涼やかな声。その二つが頭の中でプラスされた時、俺はようやく思い出す事ができた。
聞き覚えがあると思ったら、俺達の入学式の時にあいさつをしていたあの女ののっぺらぼうか。ものすごく心地よい凛とした涼やかな声が、何だか安心できたっけ。
でも、あの瞬間はそれをすっかり忘れてた。圭太を困らせる厄介なのっぺらぼうだと判断した途端に、こみ上げてくる苛立ちを抑えられなくて…。
「あの…」
俺は逸らしていた視線を元に戻して、生活指導担任ののっぺらぼうに聞いてみた。
「その、生徒会長って人は…?」
「隣の部屋にいるよ。他の先生が話を聞いてくれている」
そう言って、のっぺらぼうは本棚が並べられている壁の方を親指で指した。
それに釣られて、ついそちらを向いてしまったが、少し厚めのコンクリートの壁で遮られている隣の部屋の声など聞こえるはずがない。あの涼やかな声が何を話しているかなど、分かる訳もなかった。
反省文を書かないといつまで経っても終わらないぞと言われて、俺は仕方なく紙に自分の名前と二度と二人乗りをしないという旨の文章を書いた。
書き終えて紙を渡すと、のっぺらぼうはふんふんと納得したように何度か頷いた後で、俺にこう言ってきた。
「もう桐生に迷惑かけるんじゃないぞ」
俺はそれには応える事なく、生活指導室を後にした。
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