第42話
小一時間後、体育館で入学式が執り行われた。
小学校の時と違って、それなりに心積もりをしてきたおかげか、たくさんののっぺらぼう共に囲まれていたにもかかわらず、比較的落ち着いて椅子に座っている事ができた。後は壇上に立っているどれも同じに見た目の奴らの長い話に、あくびが出ないように気を付けていればいいだけだった。
長ったらしい決まり切った校長のっぺらぼうの挨拶が済んだ時、司会役ののっぺらぼうが次のプログラムを読んだ。
「続きまして、在校生代表挨拶に入ります。務めますのは今年度生徒会長、
じゅん。その名前に、俺は単純にも男なんだと思い込んだ。それに新入生の大半近くも同じように思ったはずだ。
なのに、その生徒会長ののっぺらぼうが壇上にゆっくりと上がっていった途端、小さなどよめきが周囲に起こった。
(――何だ?何かあったのか?)
さほど大きな声ではないにしても、どうして周りがこうもざわめくのか分からなくて、俺はひとまず原因であるだろう壇上を見上げた。
すると、壇上の真ん中に向かっていこうとしていたのは学ランを着たのっぺらぼうではなく、セーラー服を身に纏ったのっぺらぼうだった。
しかも、歩き方が微妙に変だった。まるで、崖と崖との間に架かった細い丸太の上を歩いているかのような慎重さに満ちた歩き方で、一歩一歩の踏み出しが普通より遅い。いや、踏み出すと言うより、引きずり出しているかのような…と言った方が近かった。
でも、この時の俺はそんな事をまるで気にも留めなかった。緊張しているせいだろうという単純な思考が二割程度、残りの八割は思わず口から小さく漏れ出ていた。
「女なのかよ…」
そのセーラー服を着た女ののっぺらぼうは、目下のざわめきなどまるで気にするような事もなく、まっすぐに壇上へと辿り着いた。そして、手にしていた原稿を広げると、それに向かってほんの少しだけ頭を下げてから読み上げだした。
「新入生の皆さん、並びに保護者の皆様方。この度はご入学、誠におめでとうございます」
何の変哲もない、どこの入学式でも聞けるような月並みな出だしの挨拶。それなのに、体育館の中に淀んでいた空気を一気に浄化させるような凛とした涼やかな声が、これまでのざわめきを何の事はないと言わんばかりにかき消した。
「小学生から中学生へと進学し、中には期待に胸を膨らませている人もいれば、何とも表現しがたい不安に苛まれている人もいると思います。ですが、私達の学校はそんな期待も不安も一緒に分かち合える場所である事を目指して…」
俺は、そのセーラー服ののっぺらぼうから目を離せなかった。顔は分からないのに、その声がとても聞き心地が良くて何故かもっと安心できた。
これが、俺にとって、あいつとの初めての出会いだった。
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