第34話
数日後の、授業参観の日。俺と一緒に家を出た父さんと母さんは、二人そろって「ごめん」と言ってきた。
「今日は本当にごめんな、俊一。この埋め合わせは絶対にするから」
「もし具合が悪くなったら、遠慮なく保健室に行くのよ?圭太君のお母さんにもお願いしてあるからね」
俺は、授業参観が嫌いだった。理由が至極簡単で、教室の中にのっぺらぼうが増えるからだ。
ただでさえ、普段からちびのっぺらぼうに囲まれて窮屈な思いをしているのに、授業参観ともなれば教室の後ろで大きなのっぺらぼうがぎゅうぎゅうとひしめき合って、背後から見えない視線を送ってくる。気持ち悪くて仕方なかった。
それでも、その中に花のネクタイピンか真っ赤なスカーフを肩ごしに見つける事ができれば、不思議なくらい落ち着いたんだ。
授業中だから声を出してはもらえないけど、身に着けているネクタイピンかスカーフをちょいちょいと指差してから、軽く手を振ってくれる。たったそれだけで、俺は嬉しかったし勇気をもらえた。
でも、今回ばかりはそれはない。おばさんが店の仕込みが終わったらすぐに行くと約束してくれてたけど、おしゃれな服を買いたいと言っていたのを思い出して、不安は募る一方だった。
だけど。
「大丈夫だよ」
父さんや母さんに心配をかけさせたくなくて、この時俺は強がってしまった。
「今日の授業参観は国語だし、教科書とにらめっこしてたらすぐに終わるよ。二人とも心配しないでよ。それじゃ、行ってきます!」
まだ何か言いたそうな二人の言葉を早口でまくし立てるように邪魔をして、俺は玄関の前から走り出した。
「あ、俊一!」
「気をつけてね、行ってらっしゃい!」
二人の視線が、俺の背中に向かってくるのが分かる。のっぺらぼうどものものと違って、とてもありがたいそれに、俺は何度も振り返りながら、ぶんぶんと大きく手を振った。
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