第33話

その中でも、おばさんに大きく感謝している出来事が一つある。それは、三年の二学期に行われた授業参観日での事だった。


 その頃になると、俺の家と圭太の家は家族ぐるみの付き合いをするようになっていて、時々『満腹軒』に食事に行ったり、休みの日には皆で少し遠くにある大きな公園に出かけたりするようになった。


 そんな交流が続いていたある日の事、満腹軒に夕食を食べに来た俺と母さんをもてなしていたおばさんが、ふとこんなふうに切り出した。


「そういえば奥さん、今度の授業参観日は何着ていくの?あたしったら、この体型だろ?今まではだましだましでやってきたけど、そろそろまともなおしゃれ着の一つでも買おうかなって思っててさ。参考までに教えておくれよ」


 初めて会った時も思ったけど、おばさんはものすごいしゃべり魔だ。まるで話をし続けてないと死んじゃうんじゃないかと思うくらい、いつも何かしらしゃべっている。


 それに対して、俺の母さんはどちらかといえば人の話を聞いて頷く事を繰り返す聞き役に徹する事が多かった。まあ、おばさんみたいなタイプがずっと話し続けていれば、口を挟む事も容易ではなかっただろうが、この時珍しく母さんはおばさんの言葉を遮って、「すみません」と答えた。


「実は私、次の授業参観に行けないんです。実家の母が急にぎっくり腰になってしまって…、普段は兄夫婦が世話をしてくれてるんですけど、その日だけ両方とも仕事で地元を離れるので、夜まで私が面倒を見る事に。主人も仕事があって…」

「何だい!だったら、あたしが奥さんの分も俊一君を見てやるよ!晩ごはんもうちで食わせてやるから心配しないでいいよ」


 母さんが全部言い終わる前に、おばさんが豪快な笑い声と共にそう言ってくれた。そして、隣で中華鍋を振っているおじさんに、「あんた!今度特上のフカヒレ仕入れておきな!」と言葉を投げた。


「『満腹軒』の裏メニュー、特製フカヒレスープを俊一君に振る舞ってやるんだからね」

「ちょっ…まさか仕入れ額は俺のこづかいから引くんじゃねえだろうな!?」

「当ったり前だろ!この間、万馬券当てた事を隠し通せると思ったら大間違いだからね!」


 おじさんはおじさんで無類のギャンブル好き。おばさんと結婚する前から相当のめり込んでるらしく、これまで勝った額と負けた額がほぼイコールだ、それが男の人生だと言って父さんに自慢していたのはいつの事だったか…。


 そんな二人のやり取りを見て、圭太はクスクスッと笑っている。俺も母さんもそんな圭太に釣られて笑った。

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