第29話
田室先生の車で家まで送り届けてもらった時、ちょうど母さんが家の玄関の鍵を開けようとしていた。
母さんは俺と田室先生に気が付くと、首が取れるんじゃないかと思うくらい何度もペコペコと頭を下げ、「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」と謝った。
「やめて下さい。迷惑だなんて少しも思ってませんから。また何かあったら知らせて下さい」
それじゃあ、と窓から大きく手を振って、田室先生の車は走り去っていく。その車が小さくなって、やがて見えなくなった頃になって、母さんは俺の右手をぎゅっと掴んだ。
「じゃあ、行きましょうか」
「…どこへ?」
聞かなくても何となく分かっていたが、ひとまず聞いてみた。間髪入れずに「桐生さんのおうち」という言葉が母さんの口から出た。
圭太の家への道を歩きながら、母さんは俺と学校で別れた後の事を話してくれた。
母さんはオブラートに包んで話をしてくれたが、要するに相当揉めたそうだ。
俺の悪口を言っていたのっぺらぼうの親達も呼ばれたようで、それ見た事かとニブチンや母さんを責めた。クラスメイトに怪我をさせるような頭の悪い子はどこかよそにやってくれ、とでも言ったのだろうか。
それに対して反発し、かつ俺を庇ってくれたのは、その怪我をさせられた圭太だというのだから、驚くなという方が無理だった。
「あいつの怪我、どんな感じなの…?」
俺が尋ねると、母さんはふうっと一度長く息を吐き出してから、また「大丈夫よ」と言った。
「少し強く打ち付けただけですって。アザを隠す為に包帯は巻いているけど、骨に異常はないし、数日で痛みも引くらしいから安心していいのよ」
そう説明する母さんの空いた手には、大きな包み箱が抱えられていた。
『一番悪いのは俊一君だよ』
田室先生の言葉が耳の奥から聞こえてきたような気がして、俺は改めて悪い事をしたのだと思い知らされた。
そして、その尻拭いを母さんにもさせてしまうのだと思うと、どうして俺の頭は普通じゃないんだろうと悔しくてたまらなかった。
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