第27話
「…それは俊一君が100%悪いね」
その日の正午。俺は大学病院の一角にある研究室のうちの一つに立ち寄り、そこの主となった田室先生に事の顛末を話して聞かせた。
あれから、ニブチンは教室の中の荒れ果てた様子に相当慌てふためき、ひとまず俺を教室からかなり離れた応接室まで連れ出してそこへ押し込めた。
『今日はもうこのまま帰りなさい。後でランドセルを持ってくるから』
早口にまくし立てて応接室から出ていったニブチン。そんな担任の姿に、俺はどれだけとんでもない事をしてしまったのかという不安に苛まれた。
一時間後、俺のランドセルを持って応接室に来たのは母さんだった。この時間はパートに出ているはずなのにと思って聞いてみれば、ニブチンから電話で呼び出されたのだと言った。
『お、お母さん。あの…』
『大丈夫よ、俊一は先に帰ってなさい。後はお母さんに任せて』
そう言って、母さんは昇降口まで俺を送り出してくれた。母さんはずっと「大丈夫だから」としか言わなかった。
圭太の事が気になって、まっすぐ家に帰る気になれなかった。
気が付くと、ずいぶんと行き慣れた道を電車で進み、特に診察の約束もしていなかった田室先生の元まで出向いていた。そして話し終えた俺に向かって田室先生の口から放たれたのが、先の言葉という訳だ。
「何で俺が悪いの…?」
俺は田室先生の言葉の真意を全く汲み取る事ができずに、思いっきり拗ねてみせた。田室先生なら、俺の怒りや悔しさを両親の次に理解してくれると思って、信頼して話したというのに。
すると田室先生は、去年の全国アームレスリング大会一般の部で見事優勝を勝ち取った野太い腕を伸ばしてきて、俺の頭を突然鷲掴みしてきた。正直に言う、ものすごく痛かった。
「ちょっ…何すんだよ、先生!?」
「どうだ、痛いだろ?」
当たり前の事を言ってくる田室先生の胸元には、いつもと変わらず星のマークのバッジがきらめいている。毎日ていねいに磨いているらしく、初めて見た時からちっとも傷んだ様子がない。
そんなバッジを思いきりにらみつけながら、俺は「痛いよ」と言い返してやった。
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