エピローグ 再生
第59話
「ああああああっ!」
満身創痍の江嶋拓朗は、十六年前に訪れたビルに向かって走った。
だが、そのビルはすでに跡形もなく焼け落ちており、黒焦げになって崩れた破片や残骸だらけになっている。それを目の当たりにした彼は、力なくその場で膝をつき、号泣した。
「神よ! どうして事の原因を作った私だけを生かしたのですか!? せめて、何の罪もない正也君と綾奈さんだけでも救っていただきたかったのに……! 神よ、私はあなたを生涯恨みます!!」
江嶋は、己が情けなかった。
己だけが生き残ってしまった事をひたすら恥じ、心の底から悔いた。誰でもいい、何の役にも立てなかったこんな自分をどうか殺してくれと願った。
その時だった。ふいに、江嶋の耳に届いたものがあった。それは、こんな黒焦げに焼け崩れた場には全くふさわしくない、希望の音だった。
誘われるかのように、江嶋はフラフラと立ち上がり、それが聞こえてくる方へと向かう。
あたりはまだブスブスと煙がくすぶり、空気もひどく淀んでいたが、それを全く気にする事もなく彼の足は進んでいった。
「ここか……?」
十メートルほど歩いた所で、江嶋は足を止めた。何故か、ここだと分かったのだ。
ビルは足元の地面までひどく焼け焦げてしまっていたのに、江嶋が足を止めたその一角だけは全く燃えていなかった。
それどころか、いくつもの残骸が複雑に重なり合っているというのに、その一部分がうまい具合に小さな空間を作り出している。江嶋が聞いたものは、その空間からやってきているようだった。
江嶋は、その開いた空間に向かってそっと耳をすませた。
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