第57話
「どうされたのですか、ラミア様!?」
「どうか心静かに! さあ、片割れを食らって完璧なお姿を我々に……」
「もう嫌っ! 絶対に嫌っ! 私は人間よ、蛇じゃない! もうこんな事したくないっ!!」
あまりにも悲痛で、惨い姿だった。
本人の意思とは全く関係なしに強いられる宿命に、彼女はその姿だけではなく精神まで崩壊させられそうになっている。
そんな姿を、正也はとても見ていられなかった。
「そう、だよな……。もう、嫌だよなあ……」
最後の力を振り絞って、正也は床を這い出した。
その視線の先には綾奈が壊した祭壇の残骸があり、それに挟まるような形で一枚の紙切れが見えていた。
さらにその横にはまだ火が灯ったままの赤いロウソクが一本あり、今にも紙切れに燃え移ろうとしていた。
「ああっ! 契約書が!」
それに気付いた集団の誰かが慌てて叫ぶ。だが、もう遅かった。紙切れとロウソクは正也の両手にしっかりと掴まれ、その輪の中で一つになった。
ロウソクの火を宛がわれた紙切れ――十六年前に交わされた契約書は、一瞬で大きな炎に包まれ、そのまま部屋全体を取り囲んだ。炎は情け容赦なく集団にも襲いかかり、彼らの助けを求める苦しげな声が響き渡る。
そんな中、正也はまた床を這って、バタバタと己の所業に苦しみもがく蛇の元へと向かっていた。
燃え盛る真っ赤な炎と熱のこもった黒煙に視界が阻まれ、その姿がうまく見えなくなってくる。
だが、正也はまっすぐ彼女の元へと辿り着くと、子供のように泣き喚き続けているその顔を優しく抱きしめた。
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