第55話

「何て姿になっちまったんだよ、あんた……」


 膝をついた状態のまま、正也は蛇に向かってゆっくりと右腕を伸ばす。


 それに反応したのか、蛇は「グギャアアアアッ!」と雄叫びをあげながら、その髪を触角のように伸ばして正也の全身に巻き付かせた。


「うあっ……!」


 ギリギリとものすごい力で締め付けられ、そのまま宙へと持ち上げられる。


 胸が苦しい。そう思いながら歯を食いしばっていると、次の瞬間には力任せに床へと叩き付けられた。わずかに身じろぎをする事もままならなかった。


「ふふふ。最後の贄だから、ラミア様は楽しんでおられる。まるで幼子のようだ」

「我らが王、ラミア様。その片割れを食った暁には、我らに更なる祝福と繁栄を!」


 黒いフルレングスローブの集団が次々と好き勝手に言葉を放つのを、再び床に転がされる格好となった正也は憎々しげに聞いていた。


 そして、ふざけるなと思った。


「お前ら、間違えるな……」


 痛む全身を何とか起こしながら、正也は詰まった息と一緒にその思いを吐き出した。


「こいつの……俺の妹の名前は、綾奈だ。その、ラミアとかいう変な名前じゃないっ!」


 そう言いきった後で、正也は蛇に向かい直って「そうだろ、綾奈……?」と優しい口調で話しかけた。


「悪かったな。昨日はおにぎり食ってやれなくて……。母さんの事で、八つ当たりしたのも悪かった。本当に、ごめ……」


 しかし、最後まで言いきる前に、今度は鱗だらけの尻尾が正也の背後に回ってきて、彼の背中を強く打ち付けた。


 背骨がミシミシと軋むほどの衝撃は耐えがたく、正也は前のめりに倒れ込む。その強い衝撃は、優斗から借りていた上着をボロボロに引き裂いた。


「ラミア様、本懐を遂げる時が来ました!」


 集団のうちの一人が声高々に言った。

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