第53話
「あっ……!」
「気に病む必要はない、王の器の片割れよ。お前ももうすぐ王の贄となる。彼らと共に」
彼ら……? 何を言ってんだ……?
そう口に出そうとするが、ギリギリと首を絞められて声どころか満足に息もできなくなってくる。「がっ、は……」とつぶれた音しか出せない正也に、その者の口元が歪んだ。
「我らが王、ラミア様。これが最後の贄です。ご存分にお楽しみの後、完全なる覚醒を!」
嬉々としてそう叫ぶと、その者は力任せに正也を部屋の奥へと投げ飛ばした。
突然の事に受け身を取る余裕もなく、正也の大きな身体はごろごろと転がっていく。
やがて、正也の両足が何かにがつんとぶつかった事でその勢いは止まったが、その代わりに何かが三つ、正也の目の前にぼとぼとと続けて落ちてきた。
正也がぶつかったのは、どうやら祭壇のようだった。
その一番上に飾られていたものが落ちてきたのだろうが、それを目の当たりにした正也の両目は大きく見開かれ、次の瞬間には悲痛な叫び声をあげていた。
「……うわあああああっ!」
正也の目の前にあったのは、三つの生首だった。一つは、浅黒い肌をした肝斑だらけの生首で、すぐに槙村のものだと分かった。
残りも、見覚えがありすぎた。一つは、低い鼻の右横にできた大きなニキビをこしらえてしまっていた親友。もう一つは……!
「優斗っ、父さん!」
正也は反射的に二つの生首を抱え上げた。
静かにまぶたが閉じられた二人は、まだほんの少し温かい。苦痛の表情を浮かべていなかった事も、わずかな救いだった。
正也の両目から涙が滲み出る。こんな事になるなら、もっと遠くに逃げるべきだった。
無関係の親友まで巻き込んでしまったと激しい後悔に襲われた、その時だった。
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