第52話
ロウソクだけのぼんやりとした明かりの中で浮かび上がるように現れたのは、やはり黒いフルレングスローブを着込んだ集団だった。
フードまでしっかりと被った彼らの表情は口元しか分からなかったが、そこだけでも全員が一様に不気味な笑みを浮かべている事が窺えて、正也は不快極まりなかった。
「お前ら……俺をどうするつもりだ!?」
ごくりとつばを一つ飲み込んでから、正也は言葉を放つ。すると、集団の中から一人がずいっと円の方へと一歩歩み寄り、正也を見据えるように正面から向かい合った。
「契約の時が来た」
あまりにも淡々と、無機質な声で言う。男か女かすらも分からなかった。
「お前の母親が我らと契約した。己の娘の蘇生と引き換えに、我らの王の誕生を承諾した。その契約を果たす時がついに来たのだ」
「ふざけんな! あいつの……母さんの弱った心に付け込んだだけだろうが!」
正也は、確信した。
時折見ていたあの夢。あれは、己の過ちに気付いた静枝が苦悩した上で決断した行動だったのだ。
奴らの目から隠れる為に。今日という日を無事に乗り越える為に、やむなく夫や息子と別れ、娘と共に逃げ続ける選択をしたのだ。それなのに……!
「よくも、よくも母さんを……!」
例え会えなくても、彼女は息子の好物をきちんと覚えていて、それを綾奈に教えてくれていた立派な「母親」だった。知らなかった事とはいえ、ずっと静枝に対して腹を立て続けていた自分を、正也は情けなく思った。
「母さんを返せ!!」
それまで固く握りしめていた右手のこぶしを振り上げ、正也は目の前にいる者に殴りかかった。
だが、そのこぶしが当たる前にその者の手が正也の首元をがしりと掴む。一切の容赦がない、すさまじい力だった。
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