第49話
†
「三ヵ月健診の際、彼女が君達を連れてきた時は本当に驚いたよ。最初はどこかから別の子供を借りてきたのではないかと疑いもしたが、彼女ははっきりと言った。『槙村先生が殺した綾奈が生き返りましたよ』と」
長い時間をかけてそこまで話して聞かせた槙村が、ふうと長い息をつく。
あまりにも真剣な口調で話を聞かせてくれた彼に、正也はそれが嘘やヨタ話の類ではなく、現実に起こった事なのだと理解する事ができた。
「それで……?」
震えそうになる全身を何とか抑え、正也は続きを促す。「ああ……」と吐息混じりの声を漏らした後で、槙村が言った。
「契約書のコピーとやらを見せられた。これが証拠だと。これのおかげで綾奈は生き返ったんだと嬉しそうに話していた。『そういう事』には全く疎い私でもすぐに事情が分かったよ。だから言ってやった。『その子は確かに死んだ。あなたは悪魔にその子を売り払ってしまったのか』とね。そしたら、青い顔をして帰っていったよ。それが彼女と会った最後だ」
「何で、あいつが死んだと分かった……?」
「新聞記事さ。どこか田舎の山奥で遺体となって発見されたとあった。損傷が激しい上、身分を証明する物もなかったそうだが、第一発見者の証言で名前だけ分かった。旧姓の小鳥遊を名乗っていたようだがな」
「第一発見者って、まさか」
「そう、小鳥遊綾奈だ。そして、これは私の勘なのだが、君の母親を殺したのは……」
その時だった。
二人しかいないはずの部屋の空気がずしりと重苦しいものへと変わり、ベランダなどあるはずもない四階の窓の外から無数の視線が飛び込んできたのは。
二人が同時に振り返ると、窓の向こう側で黒いフルレングスローブを着込んだ人間達がこちらを見ていた。その身を、宙に浮かばせながら……。
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