第46話
だが、受付の者に案内されてビルの一室に入った江嶋と静枝が目にしたのは、いまだかつて見た事がないほどの異様な光景だった。
ビルを訪れたのは昼間だというのに、窓という窓には黒いカーテンがびっしりと引かれ、外からの光を一切遮断している。
部屋の中を灯していたのは四隅に置かれた赤いロウソクの仄かな光だけで、そこから浮かび上がるかのように何十人もの黒いフルレングスローブを着込んだ人間達の姿が現れた。
「受付の者から、話は聞きました。娘さんを亡くされたと……。さぞつらかったでしょう」
そのうちの一人が、全く感情を伴わない淡々とした口調で静枝に話しかける。だが、静枝は自分の気持ちが分かってもらえたと思ったのか、目に涙をためて何度も頷いた。
「ええ、そうです! 心無い医者に殺されてしまいました! お願いです、どうかこの子を生き返らせて下さい! その為だったら、私は何でもします! 何でも捧げます!!」
両腕の中に抱いた白い布の塊を差し出すようにして叫ぶ静枝の後ろで、江嶋はそっと自分達の足元に視線を落とした。
その床一面には大きな円状の模様が一つと、それを取り囲むかのように判読不可能な文字がびっしりと書き込まれている。赤いロウソクから立ちのぼってくる煙は何だかひどく嫌な臭いがして、胸のあたりが気持ち悪くなった。
(彼女はこの臭いが気にならないのか?)
反射的に鼻と口を片手で抑え込みながら、江嶋は前を見据える。すると、静枝はすたすたと部屋の中心へ足を進めているところで、彼女の視線の先には大きな祭壇のようなものが置かれていた。
「それほど望むなら、その願いを叶えましょう。この契約書通りにしていただければね」
フルレングスローブの者が、その祭壇の上から一枚の紙切れを持って静枝に近付く。静枝の表情が喜びで輝いた。
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