第45話
†
「あなた、見て! これは奇跡よ!」
そう言って家に帰ってきた静枝の腕の中にいたのは、五体満足の女の赤ちゃんだった。
智彦は一目見て、娘の綾奈だと分かった。例え死んだとしても、自分の子供だ。見間違うはずがない。
何故だ。綾奈は手足どころか、まともな人間の形すらしていなかった。それがどうして、このような健康体で生き返る事が……!?
智彦は、歓喜に打ち震えている静枝の後ろにいる江嶋をキッと見据えた。彼はびくりと全身を震わせ、何とも心痛な面持ちで目を逸らした。
「こんな事になるとは思わなかった。まさか彼らが『本物』だったなんて……」
「江嶋さん、これはいったい……!?」
「私は、こんなつもりではなかった。ただ、静枝さんに現実を受け止めた上で、前に進んでいただきたくて。まさか、こんな恐ろしい事が起こるなんて……」
江嶋は、その目で見た事全てを話した……。
何をやっても死んだ者は生き返らない。
残された者は、死んだ者の分までその命を全うしなければならない。
その旨を静枝に分かってもらおうと考えた江嶋は、とあるビルの一角に彼女を連れていった。
そこは、あるグループが所有しているビルで、江嶋もネットでたまたま知った事だった。何でも自分と同じようにカウンセリングに従事していて、場合によっては相談者の意を汲み取り、その願いに沿ったプログラムを課すという試みもしているという。
情けない事だが、静枝の心の闇は思っていた以上に深く、それを晴らすには自分では力不足だと江嶋は痛感していた。
あざとく思われるだろうが、ここは同業者の力を借りて、悲嘆にくれる彼女の人生を前向きなものにしていこう。そんな真摯な思いから来た行動だった。
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