第38話

「あと二十四時間と少しだ。それだけ逃げ切れば何とかなる。父親とは別行動かい?」

「その前に、あんたに聞きたい事がある」

「聞きたい事? 何かな?」

「全部だ」


 正也は槙村を見下ろすように、その正面に立つ。その影に覆われて視界が薄暗くなったのに、槙村のほくそ笑む顔は変わらなかった。


「俺は、何も知らないっ……!」


 余裕の態度を見せる槙村に腹が立ったが、両手を強く握りしめる事でぐっと堪える。正也は声を振り絞るようにして先を続けた。


「どうして今の状況になってるのか、奴らがどういう連中なのか……何も分からなくて正直困惑してる。父さんもあの子も何も言わないし、そのせいでどうしてあいつ……俺の母親が死んだのかも分からない」

「それは話しただろう? 君の母親は生命の理に背いたから」

「面倒な話はいい、事実だけ教えろ! 十六年前に何があった!? 明日……俺の誕生日に何があるんだ!?」


 素早く両腕を伸ばして、正也は槙村の襟首を掴んだ。そのまま絞め殺してしまわんばかりに力をこめるが、槙村は涼しい顔だった。


「懐かしい……」


 ぼそりと、槙村が言った。


「あの小さな赤ん坊の『片割れ』が、ここまで立派に成長するとは。やはり、『君だけ』を生かそうと考えた私の判断は正しかった……」

「だから! それはどういう意味だ!?」

「この上なくありきたりな話になるので、本当に申し訳ないんだが」


 槙村は口の端を持ち上げ、話を続けた。


「小鳥遊綾奈。あの子は、君の『双子の妹』だよ。そして、『十六年前に私が殺した赤ん坊』だ」

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