第32話
「くっ……外に出ろぉ!」
智彦の叫びが降りかかってくるガラスの音に混じって、響く。正也の視界の端に、礼拝堂のドアを指差す彼の姿が映った。
次に気が付いた時、正也は放心していた綾奈の腕を、先ほど差し出しかけていた右手でしっかりと掴んでいた。そして、力が抜けて動けずにいた彼女を強引に引っ張り上げ、そのまま一気に駆け出していく。
「正也さ……きゃあっ!」
「ぐ、ぅっ……!」
一秒と経たないうちに襲いかかってきた美しい破片達は、礼拝堂の外へ向かおうとする二人の身体を容赦なく傷付けた。あるものは綾奈の肩や頬を。またあるものは、正也の左腕やYシャツを、まるで抵抗力のない紙のように次々と裂いていく……。
「こっちです!」
智彦に続き、一足先に礼拝堂のドアの元へ辿り着いていた江嶋が、破片で傷付いた片腕を懸命に伸ばしてくる。
皮膚の至る所で走る鋭い痛みに顔をしかめながら、正也はすがるように左手を伸ばしてその手を掴む。すると、またあの声が聞こえてきた。
「見つけた、見つけた、ついに見つけた」
「契約を果たす時が来た。我らが王の為に」
鼓膜どころか、全身にねっとりと絡みついてくるかのような、並々ならぬ執着。そんなおぞましい声に身震いしながら、四人は一気に礼拝堂の外へと出た。
まだ、日が落ちるには間があるはずだった。
それなのに、教会の周囲は光を失ったかのように薄暗い。目を凝らさなければ、四人はそれぞれの顔を見る事もおぼつかなかった。
しかも、他にも住居や店などが立ち並んでいるにもかかわらず、そこに息づく人々の気配が全く感じられなかった。
教会の全てのステンドグラスが砕けるものすごい音が町中に響き渡ったはずなのに、それに反応した騒ぎが起きないばかりか、あまりにもしんと静まり返っている。
その代わりとでも言うように、その教会の周囲を……いや、四人をぐるりと取り囲む者達が存在した。
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