第31話
「……正也っ、綾奈ちゃん!?」
最初に礼拝堂へ飛び込んできたのは、智彦だった。
今朝言っていた通り、本当に仕事を休んだのだろう。普段はあまり好まないラフで薄いポロシャツを身に纏っているが、その表情は今まで見た事がないほどにこわばり、目元も鋭く釣り上がっていた。
智彦の後ろから続く形でやってきた江嶋神父も、いつも見るような穏やかな表情が一転、ひどく緊迫した様子で周囲をきょろきょろと窺っている。とても言葉では表せないほどに大きく、激しい緊張感が礼拝堂の中を支配していた。
「二人とも大丈夫か!?」
ぐるりと二人の方に首を向け、智彦が尋ねる。やや大きめの彼の声に、やっと我に返ったのか綾奈は大きく両目を見開いた後で、暴れていた身体を止めた。
「おじさん、江嶋さんっ……!」
二人の姿を見た事で気が抜けたのか、綾奈の両手からするりとバスケットが落ちていき、それを追いかけるように彼女の身体もへたりと床に崩れる。
ぎょっとなった正也が、「おいっ、あんた……」と反射的に右手を差し出した時。
ピシッ……。ピシピシピシッ……。
その場にいる全員の耳に届いた、やや甲高くて独特な音。断続的に繰り返され、しかも連鎖的にどんどん大きくなっていく。
(いったい、何の音……?)
そう思いながら、正也が宙を仰いだ時。それは始まった。
正也の視界の中心にあったのは、この礼拝堂の中に入ればいつでも見る事ができた優しい配色とデザインのステンドグラスだった。
だが、全ての窓を彩り、太陽の光によって礼拝堂の中までも魅了してくれていたはずのこれらが今、ありえない姿をしている。それなりに分厚く作られているはずなのに、その全てに歪なほど大きなヒビが入っていた。
そして。
……ガシャアアアァァァァン!!
あろう事か、示し合わせたかのように一斉に砕けた。大小様々、無数の破片と化した色鮮やかなガラスの雨が礼拝堂の中全てに降り注ぎ、四人に襲いかかる。美しいと、思う間もなかった。
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