第29話
「ま、正也さん……」
その声は、綾奈の耳にもしっかり届いているのだろう。彼女の顔は急激に青ざめ、じんわりと汗をかき始める。それと同時に、その小柄な全身がカタカタと震え始めた。
その間も、声は絶える事なく続いた。
「見つけた、見つけた」
「とうとう見つけた、こんな所にいた。ついに見つけた、見つけたぁ……!」
一人や二人の声ではなかった。姿は見えないというのに、まるでたくさんの人数が少しずつ二人の周囲を取り囲んで、この不気味な言葉を紡ぎ続けているようだ。
何だ、いったい。どこから聞こえてくる!?
限りなく恐怖に近い気味悪さを感じながら、正也が大きくつばを飲み込んだ時だった。
「とうとう、奴らに追いつかれたんだ……」
延々と繰り返し続いている「見つけた」という言葉の隙間を縫って、ぽつりと呟かれた綾奈の言葉。
それはあまりにも小さい声で、「見つけた」ばかりに気を取られていたら、絶対に聞き取れずに流していたであろうくらい、儚くもあった。
「おい……?」
すぐ目の前にいる少女に向かって、正也は声をかけてみる。彼女は正也の声に反応せず、両手のこぶしをぎゅうっと悔しそうに握りしめた。
「よくも、よくもっ……」
声が震えている、まさか泣いているのか?
正也がそう思った直後だった。
それまで彼の正面に立っていた綾奈がぱっと動き、先ほどまで座っていた長椅子まで駆け寄っていく。
そして、そこに置きっぱなしにしていたバスケットを手に取ると、突然大声を発しながら振り回し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます