第25話

また、あいつかよ。そう思ったが、それ以上に不穏な何かを感じた。綾奈と智彦、江嶋神父や優斗が口に出してくるものとは明らかに違う、何かが……。


「これは忠告だよ、紫藤正也君」


 押し黙ってしまった正也に、槙村は強い眼差しを向けながら言った。


「くれぐれも周囲に気をつける事だ、少なくとも明日が終わるまでは。でなければ、君も母親と同じ目に遭うかもしれない」


 明日……俺の誕生日の事か?


「どういう意味だ、あいつと同じ目って」

「君にとばっちりが行くのは、個人的に困るのさ。私の腕のすばらしさが根こそぎ消えてしまうからね」

「だから、それはどういう意味かって……」

「君の母親は、もうこの世にいない」


 何の躊躇もなく、きっぱりとそう言い切った槙村の言葉に遮られ、正也は瞬時に頭の中が真っ白になった。


 何言ってんだ、このじいさん。


 あいつが死んだ……? そんなはずないだろ。


 だって、父さんからは何も聞いてないし、江嶋さんもそんな事は言ってなかった。


 あの子だって、あいつに言われたから、俺の家に来て……。


 呆然と立ち尽くす様子の正也がおかしいのか、槙村は「十六年前、私の忠告を無視したからさ」と、また笑った。


「彼女は受けるべき報いを受けて、とても無様に死んでいったようだよ?」

「……っ」

「この近くのビジネスホテルに宿を取っている。ここから逃げる気になったらおいで。待ってるよ、私の最高傑作の坊や」



 最後にそう言い放つと、槙村は踵を返して、正也の目の前から去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る