第18話

枕元に置いてあったスマホの液晶画面を確認してみれば、まだ午前五時十八分だった。


「マジか……」


 いつもの起床時間は午前六時四十分。本来ならまだ一時間半ほど眠っていられるのだが、すっかり目が冴えてしまった。二度三度とベッドの上で寝返りを打った後、正也は仕方ないといった表情で上半身を起こした。


 今日は確か金曜日ではなかったかと、正也は再びスマホの液晶画面に目を向ける。


 毎週金曜、智彦は営業の仕事で朝から隣県へと出かける為、いつもより家を出る時間が早い。新幹線に乗り遅れるとか何とか言ってろくに朝食もとらず、正也が階下に降りていく頃にはもう家を出ている事もしばしばだ。


 ふいに、正也は昨夜の玄関先でのやり取りを思い出し、どうにもばつの悪い気分になってきた。あの後、ちゃんと食べたのだろうかと少し不安になってくる。


「……たまには朝メシ作るか」


 夕食は主に正也が作るが、朝食を用意するのは智彦の担当だ。大抵が先日の残り物だったり、フレンチトーストに目玉焼きやベーコンを添えただけだったりと非常に簡単なものばかりになるが、智彦は朝食の準備を毎日欠かさず行う。例えその日が金曜で、自分は食べないにしてもだ。


 小さな声でそう呟くと、正也は急いでベッドから離れて制服に着替え始めた。母親の自分勝手な頼みに対して反対意見である事は変わらないが、昨夜の態度の悪さだけは謝りたかったし、そのせいで夕飯作りまで放棄した穴埋めもしたいと思った。


 制服に着替え終えると、正也は学生鞄を脇に抱えながら自室のドアを開け、目の前にある階段を早足で駆け降りた。手のひらの中のスマホに浮かんでいる時刻は、午前五時半。


 よし大丈夫、この時間ならまだ父さんは家にいる。充分に間に合う。


 そう思いながら、正也は階段を降りたすぐ脇に見えるダイニングへと続くドアを開けた。すると。


「……あっ、正也さん。おはようございます」


 ドアを抜けて、少し奥まった所に位置している少し広めのキッチン。そのシンクに向かい合うようにして、小鳥遊綾奈が立っていた。


 どこから引っ張り出してきたのか、新品のように真っ白なエプロンを身に着けている。そして、やってきた正也に視線を向けつつ、何やら両腕をこすり合わせているような仕草をしていた。

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