第9話
小ぢんまりしているといっても、この教会の天井の造りはそれなりに高い。静かに歩いているつもりだが、きれいに磨きこまれた床を進む自分の足音が反響して、カツーンカツーン……とこだまのように礼拝堂の中で広がっていく。
そういえば子供の頃、こうやって足音が響いていくのが、まるで何かの楽器を奏でているみたいでおもしろく、わざと走り回って大はしゃぎしていたな。父さんに何度も叱られたっけ……。
ふいにそんな事を思い出して、ついつい軽い笑みを漏らしながら、正也は扉が閉まったままの懺悔室の前に辿り着く。
この教会は、懺悔室を使用中はしっかり扉の鍵までかけて、他の者が入れないようにしている。防音とまではいかないが、扉をきっちり閉めてしまえば、中からの声はくぐもってよく聞こえなくなるので、それを知っている正也は扉を何度かノックした。
「父さん」
正也が声をかけると、中からカタンと物音が一つした。きっと、父さんが座っていた椅子から立ち上がったんだろう。
そう思いながら父親が懺悔室の中から出てくるのを迎えようとした正也だったが、ゆっくりとその扉が開かれた時、思わず大きく目を見開いた。
懺悔室から出てきたのが、父の智彦だけではなかったからだ。
「ああ、正也」
今日の分の懺悔を全て吐き出して安堵しているのか、智彦の表情は穏やかで声色も落ち着いている。ゆえに、正也はよけいに驚いたのかもしれない。まさか、智彦の身体の影に隠れるようにして、一人の少女がおずおずと出てくるとは思わなかった。
少女は、夏の季節にふさわしい純白のワンピースを身に着けていた。
年は正也とそう変わらなそうだが、百五十五センチ前後と思われる小柄な体格は智彦の背中の向こうに大半収まっている為、顔がよく見えない。ただ、そこでもじもじと身じろぎ続けているので、ワンピースの裾だけがひらひら小さく揺れているのが見えた。
「えっ……?」
全く見知らぬ少女が父親と一緒に懺悔室にいたという状況がうまく飲みこめず、正也は短い声を出したまま固まる。そんな息子の様子に気が付いて、智彦はふうと一つ息を吐いてから言った。
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