第2話
そんなバカな。これまでの検査では全く異常は見られなかったはずなのに。どうして今の今まで気付く事ができなかった……!
周囲にいるスタッフ達も異常に気付いて、「ひゃあっ!」などと短い悲鳴をあげたり、中には腰を抜かして震えている者までいる。その異常に気付いていないのは、部分麻酔とはいえこれまでの疲れで意識がぼうっとしている母親だけだった。
視界はグラグラと揺れていたが、彼女の耳には二つの産声がはっきり聞こえていた。
(ああ、よかった。赤ちゃん達が無事に生まれてきてくれた。これからも元気で、勉強や運動に優れたいい子達に……)
そう思いながら彼女はゆっくりと動く手で酸素マスクを外し、何とか視界の端に映る担当医に向かって掠れた声で話しかけた。
「槙村先生……赤ちゃん達、生まれたんでしょ? 早く見せて下さい」
「……」
「先生?」
担当医は手術台で横になっている彼女に背中を向けていた。その両腕に彼女の子供達を抱いているはずなのに、こちらを全く振り返ろうともしない。ただ、大雨の音と共に二つの泣き声が手術室の中でこだましていた。
「先生。どうかしたんですか?」
先ほどと同じ言葉を繰り返す母親に、担当医の全身がびくりと跳ねる。浅黒い肌をしたその頬に、一筋の汗が流れた。
いつまでも隠しきれるものではないと、彼は腹をくくった。この手術室の外では、彼女の夫も待っている事だろう。つらい現実だが、まずは母親である彼女に話さなくては……。
「紫藤さん」
担当医は、ゆっくりと振り返った。
「どうか落ち着いて、この子達を見て下さい」
そう言いながら、両腕に抱いていた二つの新しい命をそっと母親の視界の中心まで差し出す。彼女はいまだぼんやりとしている視界を払うように、何度か瞬きをした。
「初めまして、私のかわいい赤ちゃん達」
歓喜の涙を流しつつも満面の笑みで、彼女は子供達と対面しようとした。だが、霞みがかっていた視界が晴れたその瞬間、今度は彼女の悲鳴が手術室いっぱいに響き渡った。
「きいぃぃぃやあああぁぁぁぁ~~~~~!!」
彼女の視界の先――担当医の腕の中にいた小さな双子は、ぴったりと背中越しに寄り添っていた。いや……くっつきすぎている、と言い換えてもいいだろう。
何故なら、全くの健康体に見える片割れの背中の皮膚を貫き、食い込むような形でもう一人の身体が結合していたからだ。
胸から下は何もない。手足さえも見えなかった。
その子はだらりと首だけを伸ばして、一緒に生まれてきた片割れの側にそっと寄り添っていた。
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